10
「どうせこいつは貴族会議が手を回して、すぐに釈放されるんだろうが」
他の騎士が来てグロットの息子を連行してゆくと、プリアモンドはつぶやいた。
「貴族会議がこの国を支配するようになってから、ああいう馬鹿どもが増えたな」
リュシアンも眉をひそめる。
「まあまあ、連中が大きな顔をしていられるのも、今のうちだって」
と、笑顔で二人の肩に手を置くエティエンヌ。
「だが、王女殿下たちは亡くなり、国王陛下は公爵に監禁されている。一部の貴族による恐怖の支配は続き、泣く人は減らない」
顔についた泥をこぶしでぬぐいながら、シャーミアンは言った。
「いいや」
プリアモンドは首を横に振る。
「アムレディア殿下は亡くなってはいない。私はそう信じるよ。いつか、きっと殿下は立ち上がり、この国を解放する。白天馬騎士団とともにね」
「ほら」
エティエンヌがしゃがんで、シャーミアンに背中を向けた。
「ほらって?」
「おんぶ。歩くの、つらいでしょ?」
「い、嫌だ!」
足は痛い。
だが、自分より背の低い子供におんぶしてもらっている姿をみんなに見られるのは、絶対にごめんである。
「言ったでしょ? 従者なんだから、騎士に逆らわないの」
「都合のいい時だけ、騎士を振りかざして!」
「それが特権というものだ」
リュシアンが抱え上げ、強引にエティエンヌに背負わせた。
「あ、こら! はなせ!」
この様子を見ていた南街区の人たちは、ドッと笑う。
「あんまり暴れると、中央広場を通る時、子守唄を歌うぞ?」
「……大人しくする。やめてくれ」
顔を真っ赤にしたシャーミアンは、これ以上の抵抗をあきらめた。
* * *
数日後。
シャーミアンは団長室に呼び出されていた。
「怪我は治ったか?」
団長室に入ってきたシャーミアンに、騎士団長はたずねる。
「はい」
まだ腕は動かすと痛むが、折れてはいなかった。
「三人組がな。お前の面倒を見るのはもうごめんだと言い出した」
「……そうですか」
当然だ、とシャーミアンは思う。
口ではあれほど、騎士は弱き者を守るものだといっておきながら、守るべき者をひとりでは守れなかったのだから。
実際に、人々を守ったのは、あれほど軽蔑していた三人なのだ。
力なき者はここを去る。
最初の日に、団長はシャーミアンに言った。
今、その時が来たようだ。
「よって、シャーミアン、お前を従者の任務から外す」
「はっ!」
シャーミアンは敬礼した。
涙がこぼれそうになるのをこらえながら。
ここで涙まで流したら、あまりにもみじめだ。
「これからは」
団長は立ち上がりながら告げる。
「お前には、これからは騎士として、白天馬騎士団の一翼を担ってもらう。騎士叙任式は明日の午後だ。準備しておけ」
「………………………………………………………は?」
ポカンとした表情になるシャーミアン。
「お前は騎士になるのだ。分からんのか?」
「あ、あ、あ、あの、私はクビなので……は?」
「三人がこれほど早く騎士にすべきだと認めたのは、お前が初めてだよ」
わけが分からないといった顔をしているシャーミアンを見て、団長は思わず笑みを浮かべる。
「お前の父親は勇敢で真っ直ぐな男だった。お前は父親と同じ目をしている。期待しているぞ、騎士シャーミアン」
「は、はい!」
もう一度、敬礼するシャーミアン。
声が少し、ひっくり返った。
* * *
「おめでとう、騎士シャーミアン。まあ、まだ一日早いが」
「ふん。騒ぐほどのことではない」
「よかったね~」
団長室を出ると、三兄弟がシャーミアンを出迎えた。
「あ、ありがとう」
シャーミアンはちょっととまどいながらも、感謝の言葉を口にする。
「え? なに~、よく聞こえなかった~? も一回言って~」
笑うエティエンヌ。
「そうだな、こいつからはもう二度と礼の言葉は聞けない気がする」
リュシアンも肩をすくめた。
「に、二度と言うか!」
顔を真っ赤にしたシャーミアンは、ドンと床を踏み鳴らす。
「ああもう!」
ふと、たずねる。
「ひとつだけ、聞きたいことがある。なぜ、私がいっしょにいる時だけ、変なことばかりした?」
「それはね……」
三人は顔を見合わせると、同時に答えた。
「からかうと楽しいから!」
(おしまい)
………三兄弟とシャーミアンのお話は、いかがでしたか?
カッコいい三人組も、シャーミアンにはけっこうオニ…これも仲がいい証拠!
次回作をお楽しみにね!