西街区
さて、ツアーの一行は広場を出て、西へと向かいます。
道は南街区の五、六倍も広くなり、きれいに石畳が敷かれています。
行きかう馬車も、四頭立てや六頭立ての豪華なものばかり。
両脇に並ぶどの家々は、そのほとんどが、建てられてから何百年も経っているもの。
どれもみな輝くような白い大理石でできており、きれいな彫刻が柱や壁に彫られています。
立派な門のついた高い塀に囲まれ、緑の庭がその奥に広がっているようです。
「ほらほら、このお屋敷! 本館だけで『三本足のアライグマ』亭の四倍ぐらいある! 南街区だったら、ここに二百人は住んじゃうかも!」
トリシアは、門の前でピョンピョン跳ねながら指さしました。
「……君が観光客みたいだぞ?」
はしゃぐトリシアにレンは白い目を向け、解説をつけ加えます。
「あれは貴族の屋敷としては中くらいの大きさだけど、メイドや執事、コック、それに庭の手入れをする人たちを入れると、働いている人は全部で五十人はいると思う」
「へえー、それだけの人に、お給料払うだけでも大変だねえ」
トリシアはやっと門から離れました。
「そうだ! ここからだと、ショーンの家や騎士団本部に行けるんじゃない? せっかくだし、お邪魔しよっか?」
「…………ぜひ……邪魔を……」
アーエスの瞳がキラリと輝きます。
「お邪魔するのと邪魔をするのは違うんだけど……。うーん、いいのかな?」
レンは考え込みますが、トリシアとアーエスはさっさと進みました。
珍獣収集家のヴェルナー卿の屋敷や、自称レンの親友であるセドリックの豪邸の前を通り過ぎると、見えてきたのはサクノス家のお屋敷。
つまり、ショーンの家です。
「こんにちはー! ショーンに会いに来たんだけど」
トリシアは門番に挨拶します。
門番の人はトリシアたちとは顔見知りなので、すぐに通してくれました。
しかし。
「お前たち! 何しに来たああああああああっ!」
窓からトリシアたちを見て、あわてて屋敷から飛び出してきたショーンは、中庭でみんなを通せんぼしました。
「何よ、優しくて頼りになる先輩が、せーっかく来てあげたのに、その態度はないんじゃない?」
トリシアは恩着せがましく言うと、腰に手を当てて唇をとがらせます。
「……そうだそうだー……」
と、アーエスも同じように、腰に手を当てました。
「アーエス、お前は先輩じゃないだろうが!」
「ショーン、実は……」
レンがやれやれという顔で、観光ツアーのことを説明します。
すると。
「……うむむ、そうか。つまり、このみなさんは僕のファンということなのだな? それならそうと、早く言ってくれればよかったのだ」
ショーンは途端に、ニコニコ顔になりました。
「……違う……お間抜け……ショーンじゃなく……全員……私の……ファ」
余計な反論をしようとするアーエスの口を、レンがふさいで続けます。
「そ、それで、できたらこの屋敷と、白天馬騎士団の本部を案内して欲しいんだけど?」
「うむ。本来なら、華麗で高貴なる僕の私生活は秘密なのだが、今回はファンのために特別に協力しよう」
ショーンは上機嫌で、みんなを屋敷に迎え入れました。