「さて、ここが玄関広間だ」
扉を抜けると、赤い絨毯が敷かれた広い場所に出ました。
左右の壁にはサクノス家の先祖の肖像画がずらりと並び、その絵と絵の間にはマホガニー製の立派な扉が、正面には二階に続く大きな階段と、地下へ続く階段が見えます。
「右の扉は応接室、左の扉は書斎だ。書斎には王家の図書室に負けない歴史書が並んでいるぞ。奥の階段を下に降りると、キッチンやメイドたちの部屋がある」
階段を上りながらショーンは説明しました。
「二階には、世界各地から我が家を訪れる客人たちが泊まるための部屋がある。三階が家族の部屋だ。兄上たちの部屋もあるが、あの連中は本部にいることが多いから、あまり使われてはいないな」
「ねえ、あなたの部屋、見せてくれる?」
トリシアが聞きます。
「僕の部屋か? 駄目だ!」
ショーンは真っ赤になりました。
「絶ーっ対に、駄目だからな!」
「きれいな花だらけで、恥ずかしいから?」
「だーっ! どうしてそれを!」
「前にあなたの部屋、入ったことあるもん」
トリシアが怪盗おしゃべりフクロウと間違えられて指名手配になった時、強引にかくまってもらったのがショーンの部屋なのです。
「絨毯、ド派手なピンクだったよね?」
「あ、あれは母上の趣味で! って、こんなやつ、通すんじゃなかったーっ!」
「……ショーンの……部屋……あまり……面白くないから……三兄弟の……部屋に……したら?」
アーエスがトリシアの袖を引っぱりました。
「面白くないって言われるのも傷つくだろうが! だが、まあ仕方ない! ファンのためだ、兄上たちの部屋だけは見せてやろう」
自分の部屋さえ見られなければどうでもいいのか、ショーンはさっさと鍵を取り出します。
「どうしてお兄さんたちの部屋の鍵を持ってるんだ?」
レンはちょっと驚きます。
「ふ、賢いこの僕は、いつか連中の弱みを握ってやろうと作っておいたのだ」
「なんか、楽しそう!」
ニッとするトリシア。
「……師匠……の……弱み……ドキドキ……」
アーエスも、リュシアンの部屋をのぞく気満々です。
「だんだんツアーの目的から外れてくような……」
レンは首を横に振りますが、ショーンは勝手に一番手前の扉を開けました。
「ここが、長男のプリアモンドの部屋だ」
「……へえ、なんだか、ずいぶんきっちり片づいてるね?」
中を見て、トリシアが感想を口にします。
机の上にはペンと紙がピシッと整理されて置いてあり、本棚には剣術や騎士道について書かれた本がきちんと並び、ベッドの上では清潔そうなシーツがきちんと畳まれています。服もすべて、ちゃんとクローゼットの中にかけられているようです。
「几帳面な正確だって分かるなあ」
レンが苦笑いします。
「……あまり……秘密は……なさそう……」
アーエスはがっかりした様子で首を横に振りました。
「では、次は次男のリュシアンの部屋……」
ショーンが次の部屋の扉を半分開けかけた、その時。
ヒュッ!
何かが飛んできてショーンの頭をかすめると、後ろの壁に突き立ちました。
「……これって、矢だよね?」
壁に刺さった物を見て、レンが眉をひそめます。
「わ、罠だ! 兄上、こんなものを仕かけて……」
ショーンの顔色は真っ青です。
「勝手に入ると、危険かもね?」
トリシアは、扉の隙間から中をのぞきました。
「……試して……みる?」
ドンッ!
アーエスが突然、ショーンの背中を突き飛ばして、部屋の中に押し込むと、そのまま扉を閉めました。
ビュンビュン!
ビシュッ!
ガタン!
「ひいいいいいいっ!」
バゴッ!
ドタッ!
ガガガガガガッ!
「ぎゃああああああああああああっ!」
ギュン!
ズッドーン!
バタッ!
「だ、誰か助け……ぎょええええええええっ!」
バキッ!
メリメリメリッ!
ドッガーン!
「………………………………………………………………」
「……静かに……なった……」
アーエスが扉を開きます。
「……………………お、お前な!」
ショーンは這いながら、部屋から出てきました。
「死ぬかと思っただろうが!」
「……ちっ」
アーエスは顔をそらします。
「その舌打ちはなんだああああああ!」
「リュシアン、なんでこんな罠、仕かけてるんだろう? 訓練のためかな?」
レンが首をかしげました。
「どっちかって言うと、ショーンが合い鍵作ったことに気がついたせいじゃない?」
と、トリシア。
「ありうる」
レンはうなずきます。
「でも、こうなると、エティエンヌの部屋を見るのが楽しみかも?」
トリシアはショーンを立たせると、エティエンヌの部屋の前に立ちました。
「楽しみか!? こっちは命がけなんだぞ?」
ショーンはブツブツ言いながらも、鍵を使って扉を開きます。
カチャリ。
「う」
エティエンヌの部屋を見た途端、トリシアの顔が引きつりました。
机の上には、ショーンが小さかった頃の肖像画。
壁には、ショーンが描かれているタピストリー。
ベッドの上には、可愛いショーンのぬいぐるみまで置いてあります。
それも、バラの花で飾られて。
「こ、これは……」
「ちょっとやり過ぎな気がするなあ」
トリシアとレンは顔を見合わせました。
「こっちが恥ずかしいわあああああっ!」
ショーンは真っ赤です。
「もう屋敷の見学は終わりだ! さあ、騎士団に行くぞ、騎士団に!」
ショーンはみんなを屋敷から追い出すと、急かすようにして騎士団に向かいました。