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「やってくれたね、あんたたち!」
客を全員追い出したあとで、セルマはアーリン、フィリイ、フロイラインを自分の目に前に座らせていた。
「まあ、何でこんなことしたかは、分かるけど」
トリシアはほんのちょっとだけ、3人に同情する。
「ここが私の居場所なの! 取られるの、嫌なのよ!」
アーリンは訴えた。
「私だってそうです! ここはもう、私の故郷もいっしょです!」
フロイラインも何度もうなずく。
「私たちは家族ですよ! セルマは私たちのお母さんなんです~!」
と、フィリイ。
「……お姉さん、だろ?」
セルマはフィリイの頬っぺたをムギュウッと引っ張って訂正した。
「お、おねぇえさんにゃのでしゅ」
頬っぺたを引っ張られたまま、フィリイは言い直す。
「ねえ、やっぱりこの子たち、クビにするの?」
トリシアは心配になってセルマに聞いた。
「いや、クビにはしないよ。その代わり――」
セルマは頭を振る。
「修理代を給料から払い終えるまで、あんたら全員タダ働き!」
「え~っ!?」
アーリンたち3人は抗議の声を上げた。
「それとも、追い出されたいかい?」
「タダ働き、ばんざ~い!」
3人は涙目である。
「それとあんた」
セルマはコソコソと逃げだそうとするダッシュの首根っこを捕まえた。
「あんたが壊した分も、騎士団の給料からキッチリ払ってもらうからね!」
「じょ、じょ、冗談だろ!」
ダッシュの声が裏返る。
「きちんと払うか、副団長のシャーミアンにこのことを報告するかだけど、どっちがいい?」
「払います」
ダッシュもがっくり肩を落として頷くしかなかった。
こうして。
南街区の有名店「三本足のアライグマ」亭で働く女の子は全部で6人となった。
前よりもにぎやかになり、お客も増えたのだが。
店の被害も倍に増え、セルマは前よりももっと赤字に頭を悩ますことになったのである。
(終わり)