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ここは南街区の大通り。
「三本足のアライグマ」亭は、その大通りの東側にある、宿屋をかねた食堂である。
騎士や魔法使いに、森の妖精アールヴ、それにドラゴンやゴブリンまで、この店を訪れるお客はいろいろだが、働いている女の子たちもいろいろ。
まずは人魚のアーリンに、半吸血鬼のフィリイ、それに雪の乙女のフロイラインの3人だ。
ところが。
「あ~、どうしてこの連中、やとったんだろ?」
主人のセルマが1日に5回は頭を抱えるほど、この子たちはお店の役に立っていない。
「何よ、文句あるの!? このあたしが間違えるような、ややこしい注文するあんたが悪いんでしょ! 出てきたものをおとなしく食べなさいよ!」
お客さんとケンカするアーリンに。
ガラガラガッシャ~ン!
「ごめんなさ~い! またやっちゃいました~」
毎日1ダースは皿を割るフィリイ。
「注文? 知ったことじゃないですわ!」
カウンター席に座って氷をかじっているだけのフロイライン。
この3人のおかげで「三本足のアライグマ」亭は、ほとんど毎日が赤字である。