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白書シリーズWeb版

小学生白書30年史(1989~2019年)

【調査テーマ】「小学生の学習・日常の30年を振り返る」

第3部 小学生の学習・生活における社会経済環境の影響
2. 教育の情報化の“これから”
(2)GIGAスクール構想で教育はどう変わるか
★家庭学習に波及し、小学生の学習スタイルがどのように変わるのかがポイント

ハードの普及が先行し、運用等のソフト面において不確実性が高い「GIGAスクール構想」だが、小学生の学びやライフスタイルにどのような影響を与えるのだろうか。

学校での学びについては、デジタル教科書・教材、AIドリルなどを用いた個別最適化学習によって実現する各児童の理解度に合わせた学びが今後導入されれば、『小学生白書』における「好きな教科」「嫌いな教科」で分かる教科・学びに対するモチベーションにどこまで影響してくるか興味深いところである。また近年、導入・推進が必至とされているSTEAM教育(Science Technology Engineering Arts Mathematicsを統合的に学習する教育)やプログラミング教育が「GIGAスクール構想」によってどこまで実現するのか、効果ある学習が可能なのか、といったところも問われてくるだろう。学校での学びについては、先述した文部科学省資料の「今後の主な検討課題」が、子どもの理解度・モチベーション向上を優先する原則で、どのように構築されるか次第にかかっていると考えられる。

「GIGAスクール構想」は、現在は学校での学びに閉じていることが前提とされているようである。しかし、「児童生徒1人1台コンピュータ」が実現し、原則デジタル化した教育やオンライン教育が普及した姿を想像すると、宿題や予習・復習といった学校外での学び、従来家庭で行っていた学びにも大きく影響することは容易に想像できる。例えば、学校で使用する学習者用端末を生徒に貸し出し、家庭でネットワークを介して教育クラウド上の算数のAIドリルを利用して宿題を行う、理科のデジタル映像ライブラリで実験動画を見て予習するといった、新しい家庭学習の様子が想像できる。新型コロナウイルス感染拡大による長期休校中に求められたオンライン学習とは、まさにこのような学習ではないだろうか。

その場合、『小学生白書』の調査項目でいえば「家庭での勉強時間」「インターネット利用時間」「動画閲覧」に影響が出てくるものと思われる。ただし、上記に要する時間が一概に増加するか否かは不確実だ。AIドリルなどで個別最適化した学習が可能となれば、学習時間という面でも効率的な学習が可能となるはずだからである。反面、AIドリルや動画等のデジタル教材は、好きな児童は時間を気にせず好きなだけ取組むことができるものでもあるので、上記の時間が増加する可能性もある。また、学校で効率的・効果的な学びができるのであれば、自宅で勉強しないでもよいという児童や保護者も現れるかもしれない。その場合は、「帰宅後の遊び時間」「習い事」に充てる時間が増加するだろう。更に、同時進行的に学習塾でも教育のオンライン化が進む可能性があるため、学校の宿題・予習・復習と学習塾や学習塾のオンライン教育との間で、子どもの時間の奪い合いが起きる可能性もある。子どもが有効に時間を利用できる、すなわち使える時間という選択肢が広がることはよいことではあるが、GIGAスクール構想の家庭への波及次第で、小学生のライフスタイル、特に家庭での時間の使い方に大きな影響を及ぼすことになるだろう。

ただし、家庭でのオンライン教育の実施においては、通信コストの支払いのため、家庭の経済状況によって実施の可否に格差が生じる可能性がある。この場合は、国や自治体、通信会社による個々への通信費や通信機器の個別支援といった施策の導入が望まれる。国をあげて環境整備が一気に加速する状況を背景に、子どもの学びの在り方が大きく変化することが予測されるが、それに伴い、学校、教員、家庭、カリキュラム、テスト、評価…といった、これまで“当たり前”と捉えられてきた種々の在り方が問い直されている。

ここまで本稿で辿ってきた『小学生白書』の30年史が、これからの日本の子どもたちの置かれる状況がどのように変化するかを考察する際の一助になれば幸いである。

『小学生白書30年史(1989~2019年)』

2021年3月31日公開 学研教育総合研究所

【研究員】
杉田 英一、劉 東岳、木島 麻子、岩間 裕美、辻田 紗央子、大塚 恵理子
田中 玄寿、堀 俊明、新美 亜希子

【特任研究員】

南 敦資

小学生白書Web版 2020年8月調査