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白書シリーズWeb版

小学生白書30年史(1989~2019年)

【調査テーマ】「小学生の学習・日常の30年を振り返る」

第3部 小学生の学習・生活における社会経済環境の影響
1. 「学び」「メディア」「進路」の“これから”
(1)新型コロナウイルスの蔓延と教育
★学び、メディア視聴、進路、などライフスタイルと価値観に影響が出る可能性

2020年は、全く意図せず、世界の教育が大きな変革にさらされる年となった。世界的に蔓延した新型コロナウイルスへの対応で、日本のみならず世界の多くの国々で学校が臨時的に閉鎖され、長期間の休校を余儀なくされたのである。例えば日本においては、2020年3月2日から春休みの期間で全国一律の小・中・高校、特別支援学校に臨時休校の要請が為された。その結果、臨時休校は多くの市区で5月末日までの約3か月間続くこととなり、その後6月上旬より分散登校という形をとりながら徐々に再開された(※1)。臨時休校期間は、子どもたちの学びが途絶えぬよう学校には様々な対応が迫られたが、学校が再開されたものの(2021年3月時点)、2021年3月の現時点で新型コロナウイルスは収束していないことから、学校が対策を講じなければならない状況は現在も続いている。

「今までの常識が大きく変わる」という意味で使われる“ニューノーマル”という言葉が、新型コロナウイルス感染拡大後の世界を表現する際に度々使われるようになった。歴史的厄災となった今回の出来事は、マクロで見れば国の在り方、資本主義の考え方に影響し、ミクロで見れば働き方、家庭環境、そして学習環境の在り方を問い直す契機となった。子どもたちの日常に目を移せば、オンライン教育の導入、人が集まることの回避(3密の回避)、サッカー・野球などプロスポーツイベントの開催中断など、子どもたちの学びとライフスタイルにも大きな変容を迫るものとなった。ここからは、学校の長期休校を始めとした新型コロナウイルス対策が、子どもたちの学びやライフスタイルにどのような影響を及ぼす可能性があるかについて、影響が予測される『小学生白書』の調査項目を挙げつつ、子どもたちの“ニューノーマル”(“これから”)の姿に触れていきたい。

※1 休校期間や再開日、登校条件などは地域によって異なる。

①学び

新型コロナウイルス対策による長期休校の影響を最も受けたのが、子どもたちの学びであろう。特に、長期休校中はプリント配布やオンライン学習といった家庭での学習を強いられたため、2020年は家庭での学習時間が大幅に増加したことが推測される。『小学生白書』の調査 によると、小学生男女の家庭での1日あたりの平均学習時間は、2015年には52分と過去30年で最低レベルであった。2020年夏以降の新型コロナウイルスの流行次第ではあるが、1日あたりの平均学習時間は間違いなく増加しているであろう。その一方で、通信環境や通信機器を所有する子どもとしない子どもとの学習機会の格差が格段に拡がる可能性も懸念されている。これについては後述の「2. 教育の情報化の“これから” 」で触れるが、一刻も早い環境設備の整備が求められている状況である。

また、国の緊急事態宣言後、「原則として施設の使用停止」などを要請され、教室での対面学習ができなかった学習塾は、急遽オンライン教育の実施体制を整備した。公益社団法人全国学習塾協会が2020年4月中旬に行った調査(※2)によると、全国76の学習塾事業者のうち75%がオンライン授業を実施または実施する予定だと回答したことがわかった。学習塾のオンライン授業や課題なども家庭で行うことになるため、これに要する時間も家庭での学習時間を増加させることとなるだろう。

ただし、小学生の家庭における1日あたりの平均学習時間の増加が今後も継続するか否かは、新型コロナウイルス以外にも関連する要素が存在するものと考えられる。すなわち、オンライン教育環境の普及具合である。学校再開後、授業は教室に戻るだろうが、宿題や予習復習といった家庭での学習はオンラインで行う可能性がある。長期休校期間中に整備したオンライン教育のインフラやノウハウを活用することが可能だからである。「GIGAスクール構想 」による学習者用端末の一人一台配布に伴い、端末の生徒への貸し出しと家庭学習での利用が促進される可能性もある。2020年の緊急事態宣言終了後は、学習塾の対面授業も再開されたが、自宅でのオンライン授業や映像授業の受講を継続する小学生が増加すれば、家庭での学習時間の増加に寄与することとなるだろう。新型コロナウイルス感染拡大によって、学校・学習塾によるオンライン教育体制整備がなされ、小学生や保護者も長期休校・自粛期間中にオンライン教育を利用した経験から、オンライン教育が常態化し、小学生の学習スタイルや学習時間に大きく影響を与える可能性が出てきたと言えよう。これについては、2021年以降の『小学生白書』にその結果が現れることとなるだろう。

② メディア

新型コロナウイルス感染拡大の影響における特徴は、外部接触をなるべく少なくするため、在宅(“Stay Home”)を余儀なくされたことである。小学生も、学校・習い事の長期休校や外出自粛で在宅時間が大幅に増加したものと思われる。大幅増加した在宅時間を、小学生が何をして過ごしたか というのは非常に興味深い。新型コロナウイルス感染拡大以前の小学生の在宅時間の使い方については、2019年までの『小学生白書』の調査で確認することができる。家庭での勉強時間は近年減少傾向で2015年に52分 、帰宅後の遊び時間は近年増加傾向で2019年は158分 である。メディア接触時間は、テレビ視聴時間が近年激減し2019年には75分と最盛期の半分以下となった。

総務省「通信利用動向調査(令和元年調査)」(※3)によると、10代のネット利用時間は、2012年の108.9分から2018年には167.5分と60分近く増加している。2019年の『小学生白書』の「通信機器の所有率」の調査によると、「タブレット」36.8%、「スマートフォン」30.4%、「パソコン」28.1%と、約1/3の小学生が何らかの通信機器を所有し、利用できる環境であることが分かっている。上記のメディア接触および通信機器の所有状況から、2020年の長期休校・外出自粛となっていた3か月間に、小学生のインターネット利用時間が大幅に増加した可能性が推測できる。テレビ視聴時間も増加する可能性があるが、プロサッカー・プロ野球などのスポーツコンテンツや連続ドラマなどがコロナ禍で休止を余儀なくされた影響で、視聴時間が増加するとは一概に言い難い。小学生のインターネット利用時間が更に増大し、小学生のライフスタイルや価値観に大きな影響を与えるメディアとしての存在感が高まるものと予測できる。子どものオンラインゲーム依存などの問題も指摘されているため、今後はインターネットの利用について、親子でメディアリテラシーを学ぶことが不可欠となってくるであろう。

※3 (出典)総務省「通信利用動向調査」2019.5.29

③ 進路

先述したコロナ禍中のメディア視聴の影響が、小学生の進路、特に男子の『将来つきたい職業』に影響を及ぼす可能性がある。2020年調査の『小学生白書』によると、男子の「将来つきたい職業」 上位3つは、「プロサッカー選手」「警察官」「プロ野球選手」である。「プロサッカー選手」「プロ野球選手」はここ20年以上、小学生男子の人気職業上位5位圏内にランクインしている常連であるが、4位に「YouTuberなどのネット配信者」がランクインしている点は見逃せない。「YouTuber」は2017年の調査から上位5位圏内にランクインし、2019年には人気1位となった人気急上昇の職業である。

上記いずれの職業も、インターネットやテレビなどのメディア上でその活躍ぶりが取り上げられる点が共通している。先述したように、長期休校・外出自粛中にインターネット利用時間が大幅に増加したとなると、やはりYouTubeのコンテンツが多く視聴され、その作り手であるYouTuberの人気がさらに上昇する可能性がある。プロサッカー・プロ野球については、2020年はコロナ禍の影響で長期中断や開幕延期となり、例年と比較してメディアで試合を目にする機会そのものが減少したものの、タレントやスポーツ選手などがSNSで生配信をしたり、YouTubeに参入して身近な存在となりつつあることは、新たな人気獲得の手段となり得るかもしれない。メディア視聴やスポーツ観戦に伴うライフスタイルの変化が、とくに小学生男子の将来の進路にまで影響する可能性が出てきたのではないだろうか。

一方、小学生女子の2020年の将来つきたい職業上位3つは、「パティシエ(ケーキ屋さん)」、「保育士・幼稚園教諭」「パン屋さん」である。「保育士・幼稚園教諭」(と2020年5位の「看護師」)は30年前の1989年から継続して人気の職業であり、「パティシエ(ケーキ屋さん)」は2001年度調査時から学年を問わず高い女子人気を獲得している。2016年頃から男子に人気の「YouTuberなどのネット配信者」については、女子の人気はそれほど高くない。しかし、在宅で動画視聴の時間が延びたと仮定すれば、女子にもYouTuber人気が出る可能性は十分に考えられる。

小学生白書Web版 2020年8月調査