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Lento 大人のレッスン

8月

12回の連載も今回で最後になりました。今回は私の個人的な体験からお話しをはじめたいと思います。

これまで私は、トッププロから初学者まで、いろいろな人の演奏を聴いてきました。そこでひとつ気になることがありました。それは「美しい音」についてです。かなりうまく弾くのにあまりよくない音を出す人もいれば、たどたどしい演奏なのにきれいな音を出す人もいました。そして心地よく印象に残った演奏は、いつも後者の演奏でした。そうした演奏は、むしろ音が少なめの遅い作品に多かったと思います。作品の音ひとつひとつをていねいに紡ぎ出しているような演奏には、「美しい音」を感じました。そしてそのように感じるのは、個人教室の発表会で聴く大人の演奏であることが圧倒的に多かったと記憶しています。
そうしたなか、私なりに「美しい音」を感じる理由を探ってきました。「美しさ」を感じる基準は人それぞれでしょう。しかし私なりに「いいね!」と感じることができた演奏は明確にありました。少々飛躍があるかもしれませんが、「確立された個性と作品とが向き合ったときに美しい音がつくられる」と今は考えています。演奏者側にゆるぎない自分があってこそ、作品と対等に向き合うことができるからなのかもしれません。

ピアノの作品は、子どものための小品や練習曲をのぞけば、大人のために作曲されたものがほとんどです。ある程度の人生経験を踏まえていないと、作品のよさを感じることは難しいでしょう。
これはまともに「作品と向き合える」ということです。さらに、大人の個性はそう簡単に変えられるものではありません。しかしこれは見方を変えると、「確立された個性と作品」に相当します。
つまり、大人になってピアノが弾きたいという人には「美しい音」をかもしだす条件がすでにそろっている、ということなのです。あとはピアノを演奏する技術や楽譜の読み方などのテクニカルなことに、ゆっくりと継続性をもって取り組みさえすればよいわけです。こうしたことをひとりでも多くの人に伝えたいという想いが、ピアノ教室「レント」をはじめたきっかけになりました。

趣味をもちたいけれど何をしてよいかわからないという大人の方も多いなか、具体的に行動を起こすことにはとても大きな意義があります。また、作品を演奏するために試行錯誤することは創造行為ですから、ピアノを弾く人はすでに芸術家といえるでしょう。つまり、大人になってからピアノをはじめることは、芸術家として一歩を踏み出すことに等しい! だからとても素晴らしいのです。ただそれだけに、指導する側には、大人の方と対等に向き合いつつ芸術をともに語り合う態度が、求められると改めて思います。
数ある趣味のなかでピアノに向き合うこと自体、稀有なことではないでしょうか。自分でピアノを選んだのではなく、ひょっとするとピアノに自分が選ばれたのかもしれません。
1年間ご愛読いただき、ありがとうございました。

黒田篤志

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7月

今回は選曲について書きたいと思います。
大前提は、弾きたい曲を選んでもらうこと。そうはいってもあこがれの曲は難しい場合が多いため、矛盾するようですが、まずアレンジなしでも弾けそうな曲をおすすめしましょう。たとえばクラシックの場合、ペッツォールトやモーツァルトのメヌエット、ブルクミュラーの練習曲があります。

しかしこうした曲は嫌がられることが多いので、その場合は少し難しいですが、ショパンの《ノクターン第2番》やバッハの《主よ、人の望みの喜びよ》のアレンジなどもよいかもしれません。
《幻想即興曲》や《別れの曲》は人気の高い曲です。こうした難しい曲は、速い部分ではなく遅い部分を弾いてもらいます。それでも難しい場合はさらにアレンジします。もちろん全曲に果敢に挑戦してもらってもかまいません。しかしゆっくり根気よく取り組んでもらうしかないので、ほかの曲と並行して取り組んでもらうなど、計画のたて方を工夫しましょう。

ポップスの場合は、比較的遅めで懐かしい感じの曲を選ぶとよいでしょう。仮に伴奏を単音にしたとしても、メロディがしっとりとして素敵なので、いい感じで弾けると思います。
ジャズの場合はコードが難しいため、覚えるのに苦労すると思います。クラシックやポップスに比べ、ジャズは「ブルーノート」や
「セブンス」などを多用するからです。なるべくそのニュアンスを崩さないよう音を省きます。

童謡や唱歌は、結構人気が高いジャンルです。メロ譜を使いながら一緒に伴奏を考えると、うまくいくことが多いと思います。
そのほかには、シャンソン、ディズニー作品、映画音楽、ジブリ作品などジャンルは多岐にわたりますが、いずれの場合も、①弾ける曲をおすすめする、②弾きたい曲を選んでもらいアレンジする、③弾きたい曲を選んでもらい時間をかけて仕上げる、という3つのポイントにしたがって曲を絞り込みます。

また、連弾はおすすめです。選んだ曲をアレンジして、右手だけで弾いたり、逆に伴奏をシンプルな単音で弾いたりすることで、全体を早めに仕上げることができます。
現在では、「大人シリーズ」の楽譜が多数出版されているため、どれを選んでよいか迷うことも多いでしょう。しかし、今回お話ししたようなプロセスをへていると、 「自分がアレンジしたらこんな楽譜になる」というイメージをもとに楽譜を探すことになりますから、楽譜選びが、アレンジして楽譜を書く手間を省く感覚に近くなると思います。

あくまで、大人の方にいちばんふさわしい方法でレッスンを進めることが大切。その方のレベルに応じたカスタマイズを前提に選曲をすることをこころがけつつ、楽器店に足を運んでみてはいかがでしょうか。

黒田篤志

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6月

大人の方がお弾きになりたい曲の難易度はさまざまだと思います。曲を仕上げるためのモチベーションが続けばよいのですが、音符が多すぎたり、弾きにくい箇所が多かったりする場合、やる気がそがれてしまうことになりかねません。そこで、弾きやすいように曲をアレンジします。ポイントは3つです。

  • ①メロディをなるべく残す
  • ②重要なバスを残す
  • ③同じパターンを使う

まず①について。メロディは曲の顔のようなものです。Lesson.4のメロディについての話でお伝えしたように、場所を問わず覚えていただきたい要素ですから、あまり省略しないほうが無難でしょう。右手で内声部も弾かなければならない場合は、思い切って内声部を省き、メロディ1本にふさわしい指づかいに変更して弾いてもらいます。

次に②について。楽譜どおりに左手で演奏することに苦労を感じられる大人の方は、たくさんおられると思います。しかし、左手で弾く部分の省きかた次第では、和音のニュアンスが大幅に変わってしまうこともあります。ですから、少なくとも「ド」と「ソ」にあたる部分は、単音でもよいので残しましょう。このことも、Lesson.4のハーモニーについての話でお伝えしたことに通じます。もし、裏拍に左手で弾く音が頻出してリズムを取ることが難しい場合は、なるべく表拍にあたる部分に音を移動して弾きやすくします。

最後に③について。1曲のなかに含まれる要素が複雑になればなるほど、曲は難しくなります。そこで、なるべく単純化します。とくに伴奏は、同じ音形を多く用いて、さらに同じ指づかいで弾けるようにアレンジします。たとえば最初に「ドミソ」があって、「531」の指づかいで弾くことにしたならば、「ファラド」「ソシレ」などに残りの伴奏は変更し、指づかいも「531」で通します。Lesson.4のリズムについての話で、曲全体のリズムのパターンをざっくり把握していただくことをおすすめしましたが、アレンジしてリズムのパターンを単純化すれば、統一感をもって曲全体を把握しやすくなるでしょう。
今回お伝えしたかったことは、「演奏者のために環境をカスタマイズする」ということ。ピアノを弾く方は、楽譜に忠実であろうとするあまり、がんじがらめになってしまう傾向が強いように思います。これではやる気もそがれるし、ピアノを弾くカラダも硬直してしまいます。ご本人がなるべく取り組みやすいように曲のほうに手を加えて、おだやかな気持ちでピアノに向き合っていただきましょう。縛られるのはよくありません。

黒田篤志

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5月

最初から最後まで、ある程度のテンポでとおして曲を弾けるようになったら、曲の最終的な「仕上がりのレベル」を設定してもらいましょう。レベルには以下の3つがあると私は考えています。

  • ①楽しみとして個人的に弾く
  • ②いつか誰かに聴いてもらう
  • ③発表会など人前で演奏する

「仕上がりのレベル」が決まったら、それぞれのレベルに応じてその後の取り組みかたを定め、実践してもらいます。
①のレベルに設定した場合は、あまりストイックに取り組んでもらう必要はありません。曲を仕上げるには時間と労力がかかりますから、そのエネルギーは、より大切な場で演奏する曲を仕上げることに注いでもらうようにしましょう。

日常の気晴らしや、いろいろな曲を探すことなどがこのレベルですから、あまり完成度にはこだわらないほうが無難です。場合によっては最初から最後まで弾く必要もないかもしれません。
②はレパートリーを増やすことにつながります。ピアノを弾くことに慣れてくると、①の立場で弾いているだけでは物足りなくなってくるはずです。曲をよい形に仕上げて誰かに聴いてもらいたいという欲求が湧いてくるのですね。そのためにはしっかりとした土台が必要です。前回までにお話ししてきたことは、この土台部分を作る段階に相当します。
いでもらうようにしましょう。
日常の気晴らしや、いろいろな曲を探すことなどがこのレベルですから、あまり完成度にはこだわらないほうが無難です。場合によっては最初から最後まで弾く必要もないかもしれません。
②はレパートリーを増やすことにつながります。ピアノを弾くことに慣れてくると、①の立場で弾いているだけでは物足りなくなってくるはずです。曲をよい形に仕上げて誰かに聴いてもらいたいという欲求が湧いてくるのですね。そのためにはしっかりとした土台が必要です。前回までにお話ししてきたことは、この土台部分を作る段階に相当します。
しっかりとした土台が作られた曲を数曲ストックしておけば、③のレベルへの移行がスムーズになるでしょう。ほかの曲に取り組んでさらにストックを増やしてもらったり、より土台部分をしっかりさせるために細部を確認してもらったりするとよいと思います。
③の設定をした場合は、おそらく人前で演奏する予定などが決まっているはずです。土台がしっかりした曲を、細かく仕上げていきましょう。音色、演奏会場での響きなどを考慮して、実際の演奏でやってみたいことを具体的かつ大げさに盛り込んでいきます。
①や②と異なる点は、期日が決まっていることです。運命の日が近づいてくるプレッシャーを味わうのは苦しいかもしれません。しかし、人前でパフォーマンスすることによって得られるものは確実にあります。そのためのリハーサルを何度もするような感覚で曲に取り組んでもらうとよいのではないでしょうか。

今回お伝えしたかったことは、「仕上がりのレベルはひとつではない」ということ。なんでも完璧に仕上げるというのはよくありません。大人の方は、経験上このあたりの勘所はご存じのはずですが、ピアノになると完璧を求めてしまうことが多く、挫折の要因になりかねません。ご自身の人生経験や日常の出来事などと比較しながら、目的に応じた最終形をめざしていただくことが肝心です。

黒田篤志

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4月

これまで書いてきた方法で地道に曲に取り組めば、断続的ではあっても、両手で弾けるようになると思います。しかし両手で弾けている部分どうしのつながりは、不十分な状態にあるのではないでしょうか。
そこで今度は、部分ごとにできあがっているパーツを組み合わせていきます。たとえば、第1~2小節、第3~4小節はそれぞれ両手である程度弾けるのに、そのあいだのつながりがうまくいかない場合、第2小節の後半~第3小節の前半を抜き出して弾いてもらいます。
これは特殊な方法ではありませんし、わかりやすい作業ですから、「簡単にできる」と思われるかもしれません。しかし、これがなかなか難しいようです。その原因は以下の4つにあると思われます。

  • ①できあがっているパーツがはっきりしない
  • ②どこから弾き出せばよいのか迷う
  • ③弾き出す音が楽譜を見てもよくわからない
  • ④量が多くて面倒である

まず①に対処するために、両手で弾けている部分を、お互いに確認し合いましょう。攻略するパーツを明確に分けてパーツの数も把握すれば、④への対処にもつながります。

つぎに「弾きやすそうなところから弾きはじめてください」と伝え、②に対処します。先の例でいえば、第2小節の後半からであればどこから弾きはじめても構わないということになります。それでも迷う場合は弾きはじめる箇所を指示します。
ところが、楽譜で該当箇所を指示しても、弾き出せない場合があります。これが③です。できあがっているパーツはまとまりで記憶しているため楽譜がよく読めたとしても途中からはじめるとピンとこないこと、まして楽譜に不慣れな場合は楽譜で該当箇所を指示されても瞬時に音を判別することができないことがその理由のようです。したがって、楽譜で該当箇所を指示するだけでなく鍵盤でも指示して、楽譜と照らし合わせながら丁寧に対処します。
最後に、「あと3回のレッスンでだいたい終わりますね」というような一言を添えます。これは④への対処法です。今回取り上げた「パーツを組み合わせる」というテーマに限らず、ピアノを弾くことは地味で地道な作業でもありますから、やる気がなくなることはよくあること。教える側は、大人の方ひとりひとりに合った計画を頭のなかにもっておく必要があります。そして、それをもとに直近の目標を伝えながらサポートすることが、大人の方のやる気を長続きさせることにつながります。
以上で、ほぼ曲は仕上がると思います。おそらく最初から最後まで、ある程度のテンポでとおして弾くことができるはずです。

黒田篤志

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3月

前回までは、まとまったパッセージを弾く方法について書きました。この方法を右手と左手でゆっくり試していけば、取り組んでいる曲のかなりの部分を把握できると思います。今回は両手を合わせるコツについてです。
両手を合わせるときは、縦の要素に注目してもらうようにします。たとえば右手が16分音符で「CDEFGFED」、左手が8分音符で「CGEG」を繰り返すとしましょう。この場合、左手の「C」と右手の「CD」、同様に「G」「EF」、「E」「GF」、「G」「ED」という組み合わせに注目してもらいます。
このとき、右手に左手を合わせるか、その逆かという問題が生じます。左手の伴奏が単純な繰り返しの場合は、左手に右手を合わせたほうが弾きやすいかもしれません。経験上、大人の方は右手で音楽を覚えていることが圧倒的に多いので、右手に左手を合わせるほうが進めやすいようです。いずれにしても、やりやすいほうを選択してください。
はじめは「CD」「EF」「GF」「ED」というように音楽が途切れて、何を弾いているのかわからなくなるかもしれません。しかし、あまりそのあたりのことは気にせず、両手で弾ける感覚を楽しんでもらいます。無理せず把握できる分量を守りながら、少しずつ進めていきましょう。

音楽は、大雑把にいうと横と縦の要素でできています。たとえばメロディは横の要素、ハーモニーは縦の要素です。また、ピアノは両手を使って演奏しなければなりません。こうしたことを踏まえると、それぞれの手が独立して動いて、ちょうどよいタイミングで右手と左手が合い、横に流れている各声部の音をそれぞれ聴きながら、ハーモニーも感じるのが、理想的な演奏の状態でしょう。いわゆるピアノ学習において、ある段階からバッハのポリフォニーを学びはじめるのは、こうした理由からです。
しかし、このような状態になるにはかなりの熟練が必要ですし、バッハのインヴェンションあたりで頭と手が混乱した経験は、ピアノの先生ならば誰でもなさっているのではないでしょうか。単刀直入にいえば、鍵盤楽器を両手で弾いて音楽的な演奏をするのは、難しいに決まっている! ということです。
大人のピアノの場合、こうした当たり前の難しさに向き合うことが大切だと思います。両手を合わせるレッスンの日はそれのみに集中してもらい、そのほかのことはなるべく指摘しないこと。いろいろな要素を同時に盛り込まないように心がけましょう。

黒田篤志

2月

単音とその鍵盤を弾く指のよいコンタクトを確認できるようになったら、まとまったパッセージに挑戦してもらいましょう。簡単に覚えられるくらいのひとフレーズが適量だと思います。長くてもおよそ1~2小節までが限度ではないでしょうか。
単音レベルでは指と鍵盤のよいコンタクトがとれていても、音がつらなるとよいコンタクトが崩れてしまいがちです。とくに注意を払ってもらいたいのは、指から指へ移るあいだの感覚。たとえば「CDEFG」を右手の1~5の指で弾く場合、 「1」から「2」、「2」から「3」、「3」から「4」、「4」から「5」といったように、つぎの指に移っていくときの感覚を十分に感じでもらうようにします。指が支えている腕の重みが、少しずつ移動していくような感覚ともいえるかもしれません。これをゆっくり丹念に行ってもらうには、「レガートで弾いてください」と伝えるとうまくいくことが多いようです。
もうひとつの注意点は、まとまったパッセージの分割です。簡単に覚えられるくらいのひとフレーズのなかにポジションの移動がある場合は、それぞれのポジションについて前段の方法で練習してもらい、そのあとにポジション同士をつなげていきます。たとえば「CDEFGAHC」という音階がひとフレーズだとしましょう。これを右手で弾く場合には、「123」「12345」という指づかいになります。単純なハ長調の音階ですから、簡単に覚えられるくらいのひとフレーズです。しかし「E」と「F」のあいだにポジションの移動がありますから、このフレーズをきれいに弾くことは困難です。この場合、思い切って「123」と「12345」を別物ととらえてもらい、それぞれをレガートで丹念に弾いてもらいます。慣れたらそれぞれのポジションをつなぐ練習に進みます。
私は以上の取り組みを説明するときに、「音楽的フレーズ」と「テクニック的フレーズ」という言葉を使っています。ハ長調の音階にあてはめると、前者は「CDEFGAHC」、後者は「CDE」「FGAHC」になります。大人のピアノの場合、練習のねらいを明確に把握してもらうことが大切。 ①簡単に覚えられるくらいの「音楽的フレーズ」を選択する、②そのなかにある「テクニック的フレーズ」を確認する、③それぞれの「テクニック的フレーズ」をカラダに入れる、④それぞれをつなぎながら選択した「音楽的フレーズ」を仕上げるという4つのプロセスを踏まえ、順序よく仕上げてもらうことを心がけています。

黒田篤志

1月

曲を仕上げるにあたり、全体像をおおまかに把握し、3大要素によるアナリーゼ的な整理を終えたら、いよいよピアノを弾く番です。しかし、やみくもに弾きはじめるのはよくありません。
はじめは単音から弾いてもらいましょう。まとまったフレーズではなく、一音一音を確かめながら弾いてもらいます。そのとき、それぞれの鍵盤を弾くときの、もっとも充実したカラダの感覚を意識してもらうことが大切です。
たとえば右手で中央の「C」を弾く場合、指は1~5が使えますから、5通りの指づかいがあります。これは、同じ音を弾く場合でも、使う指によってカラダの感覚は異なるということです。このことを踏まえて、取り組んでいる曲の指づかいにしたがって鍵盤に触れつつ、丹念に充実したカラダの感覚を探ってもらいます。
鍵盤に触れるのは、なるべく指先の中心がよいでしょう。てのひらは内側に向いていく傾向が強く、右手の場合、指先の右側が鍵盤に触れがちです。とくに4と5の指はその傾向が強いと思われます。少してのひらを外側に向けるようにするとよいかもしれません。
鍵盤のどの部分に触れるかも大切です。「CDEFG」を右手の1~5の指で弾くことを例に考えると、1より2の指、2より3の指が、鍵盤の奥の方に触れることになります。そして3より4の指、4より5の指の方が、手前になるでしょう。和音の場合でも「CとG」を1と5の指で弾く場合、5の指は鍵盤の奥の方に触れ、1の指は鍵盤の手前に触れた方が手は安定しますから、単音でそれぞれの位置で「C」と「G」を弾いてみて、そのあとに「CとG」を同時に弾き、もっとも安定する位置を探ります。
大切なことは、鍵盤にとらわれないこと。カラダがラクになれる手の形を優先するべきです。鍵盤に手の形を合わせるのではなく、カラダがラクになれる手の形を維持しながら、鍵盤の奥行や、白鍵と黒鍵の段差などを考慮して、触る位置を決めていきます。手首と肘はなるべく柔らかい方がよいため、あたかも潤滑油に満たされているような感覚を大切にしてもらうとよいのではないでしょうか。
曲がなかなか仕上がらない原因のひとつに、ピアノと指先のコンタクトの悪さが挙げられると思います。ここがしっくりしていないと、カラダが不安定な感覚に満たされ、ココロも不安になってきます。音のつらなりによって指や手の使い方も変わってきますが、とりあえず、単音とその鍵盤を弾く指のよいコンタクトをしっかりカラダに入れ込んで、そのつぎに少し長いパッセージを弾くときのカラダの使い方を探っていくことが、曲を仕上げる近道です。

黒田篤志

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