大相撲1月(初)場所において、十年ぶりに日本出身力士の大関琴奨菊が幕内優勝を果たした。大関26場所目での優勝は、素直に嬉しい出来事だった。
私は熱心な相撲ファンとまではいかないが、幼少期には友達と相撲をとって遊んだ世代であり、今も毎年両国国技館に足を運ぶ相撲好きである。
今回は、大関琴奨菊が怪我や困難を乗り越え、念願の初優勝を飾ることができた理由の中に、子育てのヒントが隠されているのではないかと思い、私なりに考えてみることにした。
琴奨菊関は中学高校時代からさまざまな相撲大会で優勝し、アマチュア相撲選手として全国的に注目を浴び、将来の大相撲力士として嘱望されていた。そして、期待通り、入門後2年半で十両に昇進。しかし、大関となるまでにはそれから7年もかかり、その後も何度も怪我に見舞われ、5回もの角番を経験した苦労人の力士である。
ところが、今場所は以前の強さと脆さの両面が現れることなく、三横綱を倒し見事な優勝を成しえた。周囲はそれほど大きな期待を掛けていなかったが、本人は自信をもって今場所に臨んでいたそうである。そして、その自信の裏付けを三つあげている。
一つ目は、稽古の質の改善と肉体改造をもたらした体幹トレーニング。
相撲の最も基本的な稽古であるシコ、てっぽう、すり足などを徹底して練習した結果、下半身が充実し、重心が今まで以上に下がったのだそうだ。
また、専属のトレーナーが考案した体幹を鍛える琴奨菊専用のプログラムによって怪我を克服し、押しの威力が増したという。弱点を改善し、長所を伸ばすことができた専門的なサポートチームの存在は大きい。
二つ目は、琴奨菊関が困難な状況に陥っているときも、常に温かく支え、見守り、心から信じてくれた家族の存在である。
人生には良い時もあれば困難な時もある。もがいてももがいても浮上できず、すべて投げ出してしまいたくなる時もある。そんな時も、自分を信じてくれる存在がいたことはどれだけ励まされ勇気づけられたことか。
琴奨菊関はお祖父さんから相撲の手ほどきを受けたと聞く。今は亡きお祖父さんもあちらの世界で孫の優勝を喜び、満足そうに微笑んでいらっしゃるだろう。
三つ目は、昨年の結婚後、料理の勉強をして健康面を支えてくれた最愛の妻の存在。
厳しい稽古とトレーニングをこなすには食生活の充実は欠かせず、栄養面からも肉体改造が可能になったのだろう。そして、厳しい稽古や本場所での技と技との応酬による真剣勝負で、日々精神をすり減らしている気持ちをいくらかでも分かち合い、支えてくれる存在は大きいに違いない。
私は、子供が日々成長し続け、やがて夢を叶えるためには、保護者と子が話し合いながら目標を設定したり、長い目で成長を見守り、常に子供を信じ励ますことが最も肝心だと思っている。
日々の生活の中で疲れているのは大人だけではなく子供も同様。喜びや嬉しさいっぱいで心が満たされる時もあれば、悲しかったり、辛かったり、心も体も疲れて元気が出ない、やる気さえも起こらない時があることをわかってやる。傷ついた心を持って、外から帰ってきた子を迎えたときは、その子の心の状況をじっくり読み取りながら温かく声をかけたり、または静かに寄り添ってやりたいものだと思う。
一人一人の個性や能力に応じた支援や指導の在り方は多様だが、すり減った子供の心は、保護者や周囲の愛情や温かな支えによって癒され、徐々に勇気づけられていくのは確かだ。そうして、やる気を持ち直し、主体的に意欲的に行動できるようになる。
受験などで精神的に不安定になりやすいこの時期、子供の力を心から信じ、励まし支え続けて欲しい。
人が支えることで、人は変わることができるのか。もちろんイエスである。
琴奨菊関がトレーナーや最愛の家族に必要な支えを得られ、苦難を乗り越え、みごと優勝できたことがその証でもある。