表題の「ろうそく 一本 ちょうだいな」のセリフで「あれっ」と感じた方は北海道函館に生まれ育った方か現在函館に住まわれている方かもしれない。
というのも、函館では毎年7月7日七夕の夕刻、おもに幼児や小学生が近隣の商店や住宅に訪問し声をそろえて「竹に短冊 七夕まつり 大いに祝おう ろうそく一本ちょうだいな」と歌ったあと、一人ひとりお菓子などをいただく風習があるからだ。
(写真提供:髙橋良祐客員研究員)
私は、偶然にも七夕の日に、函館の学研教室の指導者の研修に招かれてこの光景を目にする機会を得た。なんとも可愛らしい子どもたちの歌声とそのセリフを、にこにこしながら聞いている大人の方の穏やかな表情が印象的だった。
地元の方の話によると、昔はお盆を持って各家庭などを軒並み訪問し、セリフ通りに1年ではとても使いきれないほどの「ろうそく」をいただいたそうだ。現在では、安全上の配慮などもあって、笹飾りを玄関前においている家庭やお店に訪問するようだ。また、幼児や低学年の子どもたちには複数の保護者が付き添い街を回っていた。その様子を見ていると、付き添っている保護者の表情がとても和やかで、子どもが楽しみにしていたお祭りを大切に見守ろうという気持ちが私にも伝わってきた。それと同時に、祭りを楽しむ子どもたちの姿に、幼かった時の自分を重ねているようにも感じた。
女の子は多くが浴衣姿で、とても華やいで見えた。男の子は普段着、じんべい姿、浴衣姿と様々だった。多くの子が、ろうそくを入れるための大きめのビニール袋を持っていて、中にはリュックを背負っている強者もいた。子どもの大人に対する期待感が良く表れているなと微笑ましく感じた。子どもの期待に違わず、袋やリュックの中にはろうそくの代わりにたくさんの「お菓子」が入っていて、子どもたちは本当に嬉しそうな表情を見せていた。中でも、人気のケーキ屋さんの店先には大勢の子どもたちが集まっていた。毎年のことだそうだ。私はどんなケーキなのか見たかったのだが、とてもその中には入れそうになかった。(函館のケーキだから一口サイズでもきっと上品な甘さで美味しいのだろうと想像した。)
以前このコラムで秋田の竿灯祭りの光景を紹介した。竿灯祭りという伝統文化の行事に取り組む中で、地域の大人が子どもたちを慈しみ育てている。そして、子どもたちもこの祭りに参加することで、尊敬し、憧れるような大人たちとの出会いを得ている様子に感銘を受けた。私は秋田の学力日本一はこのような地域の日常の中で育まれ、そして学校や私的教育機関との協力のもとに築かれてきたと勝手に結論付けている。
今回、函館の七夕祭りからも秋田の竿灯祭りと同様、地域の方々が子どもを大切に育てていることが十分に感じられた。子どもたちも地域の温もりの中で伸び伸びと育ち、この環境を通して多くの方々と関わり遊び学ぶことで「人を思いやれる」、「人を大切にする」人間に成長していくのだろう。地域がまとまることは、防災でも防犯でも、あるいは生き生きした地域活動を行うにしても重要なことだ。私の宿泊した地域には伝統ある学校が存在し、その存在を中核にして、多くの大人が教育や地域活動に関わり、子どもを「可愛がる」こと、「育てる」ことを大切にしながらつながっているように感じた。
我が国では各地域で独特の伝統文化が脈々と伝承されている。特に、祭りは子どもも大人も存分に楽しめるものだ。今年の夏休みにも日本各地で夏祭りが盛んに行われるだろう。それぞれが思い思いに祭りを楽しみながら、この貴重な機会を通して大人は子どもを慈しみ、子どもは大人に憧れや尊敬を抱き、一人一人が生き生きと成長できる地域づくりが進んでいくことを心から願いたい。