遅れていた梅雨前線がやっと北上してきました。今年も水不足が心配されていましたが稲作への影響は如何なものになるのでしょうか。今年は豊作となることを心から願っています。
さて、子どもたちの学校生活は新学期から二か月あまりが過ぎ、各学級では友人関係なども落ち着きよりよい学びの場が営まれていることと思います。子どもたち一人一人が新学期早々真剣に計画した目標も一歩ずつ着実に進んでいることを願うとともに大いに期待しています。
「願う」といえば学研教育総合研究所が長年にわたって調査している「小学生白書」の項目の中から「将来つきたい職業について」で顕れた子どもたちの願いや意識の変化などについて考えてみたいと思います。
まず次の図を見ていただきたいと思います。この図は研究所のHP、1989年、2013年、2023年の調査資料に基づいて作成したもので、子どもたちの職業選択の変化や傾向を分かっていただけると思います。
なぜこの年を選んだかという理由ですが、2023年は直近の調査であり、現代の子どもたちが自分の将来をどのように意識しているのか、その様子が良く示されているのではないかと思います。
2013年は10年前の調査となり、10年ひと昔、時代の変化とともに子どもたちの意識の変化などが比較できると思います。またこの年は、前年2012年、ロンドンオリンピックでサッカー日本代表が4位入賞と大活躍し、多くの日本人選手がヨーロッパのクラブチームで活躍していました。また、ケーキや飴細工など世界大会やアジア大会などで活躍されている方々の報道も多くみられ、子どもの将来への意識にもよくそれが示されています。
1989年は今から35年ほど前、日本がバブル経済の最盛期で日経平均が最も高く値上がりした年で、金融業で働く女性事務職社員が100万円のボーナスを得たと報道されるなど好景気に沸いていた最後の年でした。30代半ばの教員だった私はその様子を大変うらやましく思ったものでした。子どもたちの将来への展望などに正しくこの時代の在り様が示されているように思います。
3つの時代で子どもたちの「将来つきたい職業」の変化を見ると、より一層それぞれの時代が子どもたちの意識に大きな影響を与えていることに改めて気づきます。また職業の希望は、その時代の課題とも大きくリンクしており、子どもたちの意識はそれぞれの時代の鏡のようにも感じます。
この図は女子の職業意識の変化を示したものとなっています。バブル期の様子を子どもたちはどのように見ていたのでしょうか。この時期のみ一般女子事務員が6位に入っています。男女雇用機会均等法の施行以降、現在では「一般職」という職種がなくなりましたが、「会社員」としてもその後、上位に入ってこないようです。また、パティシエ・ケーキ屋さんは2013年2023年ともに1位で近年の大人気職業です。
学校の先生は1989年には2位にランクインしていましたが、その後は2023年では男子では17位、女子は15位と低迷しています。昨今の学校事情や先生方の働き方を良く見ている小学生の目にも教師は魅力ある職業とは映らないのでしょうか。質の高い教育の実現には優秀な教師の存在が欠かせません。我が国の最も大きな課題の一つを子どもたちに指摘されているように感じます。重要な幼児期を支える保育士・幼稚園教諭の人気は少し下がり気味ではありますがトップ5をまだ維持しています。
また、最近のアイドルブームやダンスブームの影響か、歌手・アイドルが3位、美容師が7位、またダンサーも学校の先生と同数となっています。世界で活躍する健康的なリズム感溢れるエンターテインメントの存在は子どもたちの心に大きな影響を与えています。
医療関係では看護師が2位と変わらず上位に位置していますが、医師・歯科医師も2023年の調査では5位にランクインしています。スーパー女医さんなどのドラマなども多少は影響しているのでしょうか。コロナ禍で大活躍されている医師や看護師さんの報道なども小学生女子の心に響いているのかもしれません。
男子では、やはり1989年のバブル期の一般サラリーマンの人気ぶりでしょうか。景気が良かった様子を子どもたちが良く捉えているように感じます。
2013年は先ほど述べたようにサッカーの日本代表が海外でも活躍する姿を多く目にするようになったためか、プロサッカー選手がプロ野球選手を抜いて、一躍1位になった時代です。スポーツ関係で言えばプロ野球以外のスポーツ選手(2013年からサッカーも除く)が2023年の調査では2013年の圏外から3位に復活している点が興味深く感じます。
以前はプロスポーツと言えば、相撲、野球、サッカー、バレーボールやバスケットボールなどしか思いつかなかったものですが、現代ではオリンピックの種目としてサーフィン、スケートボード、BMX、マウンテンバイク、スポーツクライミングや新種目のブレイキンなど様々あります。また、eスポーツやプロゲーマーなどコンピューターを使用しての競技もあり、高額の賞金も用意されているようです。私などは画面を見るだけで目が回りそうですが、小学生男子には魅力ある職業となりつつあるのでしょう。
YouTuberやネット配信者は近年では常に上位で大変な人気ぶりです。子どもたちが日常ネット配信を目にする機会が多くなっていることが分かります。ネット社会の便利さと共に、ネット社会の危険な状況を子どもたちにも分かりやすく伝えなければならないと感じます。国会議員に当選したYouTuberが恐喝等で逮捕されるという事件もありました。このことは、大げさに言えば「労働とは何か」「仕事の価値とは何か」などについても改めて問い直さなければならないように感じます。
以前のコラムで「一人一人の個性が異なるから世の中は面白く、また違う者同士が響き合うからこそ、新しいアイデアが創造され同時に感動が生ずるのではないか」と述べました。今回の小学生白書から子どもたちは世の中を映す鏡のような一面があり、私たち大人はこのことから学ぶことがあると思います。
また同時に、私たち大人が子どもたちにできることがあるとすれば、子どもたちが主体的に「好きなこと」を見つけ「努力」を楽しみ「自分の目標」に向かって「自分だけの才能・個性」を伸ばせるように、優しい目線と温かな心で接する社会を作ることこそ重要です。小学6年生の約36%が将来なりたい職業は未定と答えていることも十分踏まえて私たち大人は子どもたちに接したいものです。
子どもたちを応援している達人がおられます。私が本当に立派だなとつくづく感じる方々です。人気テレビ番組の「博士ちゃん」に登場する子どもたちのすぐ傍らで、それぞれの博士ちゃんのやりたいことを「何年も何年もじっと子どもを見つめ、愛をもって応援し続けている包容力溢れる保護者」の方々です。
応援されている博士ちゃんは、それぞれの分野の研究者と十分にやり取りができるほど知識も豊富で深い内容まで研究していることが分かります。その研究を深めるためには主体的で豊富な勉強量に裏打ちされた基礎学力が備わっていることも分かります。やはり私たちがやれることは、個性豊かな子どもたちが持っている興味関心を支え、学ぶ環境を整えて応援することなのかもしれません。与えた学びからは子どもの溌剌とした学びの姿は見られないと心得る必要がありそうです。