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遠藤宏美(宮崎大学特任助教)
東日本大震災は、私たちの生き方に変化をもたらしたと言われている。発生当日の恐怖感や混乱、そして翌日以降、現在に至るまで終息の目途がつかない原子力発電所爆発の被害などは、大人自身はもとより、次世代を担う人々、すなわち子どもの生き方についても深く考えざるを得ない状況を引き起こしている。
では、震災を経験して、子どもを持つ親たちはこれから子どもにどのような能力や生き方を身につけてもらいたいと思うようになったのであろうか。本調査では、それぞれA・Bと設定した能力や生き方を比較し、大震災の後、「より重要だ」と思うようになったほうを選んでもらった。図1-6はその結果を示している。この結果によると小学生の保護者たちは、「競争に勝つ(19.7%)」よりは「共に生きる(80.3%)」ことを、「快適さを追求する生き方(21.2%)」よりは「自然に親しむ生き方(78.7%)」を、「頭の良さ(学力)(28.7%)」よりは「たくましさ(体力)(71.3%)」を、「自分のために頑張る(43.1%)」よりは「社会のために頑張る(57.0%)」ことを、そして「豊かな感性(44.1%)」よりは「理性的な判断力(55.9%)」を、重要だと思うようになったことがわかる(カッコ内は、A・Bそれぞれの「より重要だと思うようになった」と「どちらかといえば重要だと思うようになった」の回答を合計した値)。まとめると、「ひとりで生きるのではなく、みんなで手を取り合って、自然に親しみながら生きていくこと」、そのために必要なのは「たくましい体と、状況を客観的に把握し判断する理性」である、と言うことができるだろうか。
特に、「共に生きる」ことの重要性は高く、「より重要だと思うようになった」の回答にのみ注目すると、13.6%と際立って高い値を示している。大震災の被害が連日報道されるなかで、相互扶助の機運が高まったことの表れであると考えられる。では、大人が子どもに身につけてほしいと願う「共に生きる」力は、現時点で子どもたちに備わっているのだろうか。次項で検討しよう。
図1-6 東日本大震災を経験して、子どもに身につけてもらいたいと思うようになった能力・生き方(N=927、単位:%)