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小学生白書Web版 2011年6月調査>分析編>

第2章 学年別にみた東日本大震災時の下校の実態

角替弘規(桐蔭横浜大学准教授)

はじめに

 こうした報告書に似つかわしくない書き出しかもしれないが、筆者の子どもが通う小学校では、毎年2学期の始まる日に合わせて、地震発生時を想定した「引き渡し訓練」が行われている。筆者もそれに何度か参加したことがあるが、恥ずかしながら筆者自身、今回の震災が起こるまで、こうした訓練に緊迫感をもって参加したことがなかった。地震は起こらないことはないだろうし、それに対する備えが必要だとも認識していたが、「引き渡し訓練」に関しては、もし震災が起こった場合に、学校で子どもを引き取るための手順の確認にすぎないといったような認識に、少なくとも私自身は留まっていた。

 果たして、3月11日の震災当時、筆者は東京都内におり帰宅困難者となった。携帯電話やメールは思うようにつながらず、交通機関の状況すら把握することが難しかった。ましてや自分の子どもの状況がどうなっているかということすら確かめることはできなかった。小学校の引き渡し訓練の時に、子どもをどうすることになっていただろうか・・・・それまでの訓練に対する自分の認識の甘さを痛感すると同時に、今さらこの時になって「分からない」「知らなかった」では済まされないことを痛感した。

 これまで地震をはじめとする災害に対する様々な対策と訓練が行われてきた。ではそのような対策や訓練を人々はどのように受け止めてきたのだろうか。私たちはこうした取り組みに真剣に取り組んできただろうか。3・11の大震災はそうした私たちのこれまでの姿勢を問い直す契機であったと捉えることができる。特に小学校に通う子どもを抱える保護者にとっては、日頃の家庭内における防災対策と同時に、学校との連絡のあり方、子どもとの連絡のとり方、下校方法の確認など、多くの現実的な課題が突き付けられたと言えるだろう。

 そこで、第2章では、震災時の下校の実態について、震災前の災害時対策への取り組みや認識のあり方と合わせて検討する。第1節では震災前における学校の防災対策に対する認知度の実態と、震災後の意識の変化を取り上げる。第2節では震災が起きた際にそれぞれの家庭でどのような取り決めがなされているか、実態を明らかにする。第3節以降では、今回の震災において子どもたちの下校がいかなるものであったのか、そしてそこにどのような課題があったのかについて検討する。