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角替弘規(桐蔭横浜大学准教授)
まず、集団下校がどのような形態を持って行われたのか概観しよう(図2-6)。全体の状況では、先生が付き添っての集団下校という形態が約半数近くという結果が示されている。また、保護者が付き添っての集団下校は15%であり、子どもたちだけによる集団下校は3割強ということであった。先生なり保護者なり誰か大人が付き添っての集団下校は6割以上であったといえる。
図2-6.集団下校の実体(全体・学年別、%)
これを学年別に比較してみると、学年によって若干傾向が異なっている。子どもたちだけの集団下校は、全体の状況と同じく各学年3割程度ということであったが、低学年では保護者が付き添っての集団下校が2割を超えていた。また中学年と高学年では先生が付き添っての集団下校が5割以上という結果になっている。
このように様々な形態によって行われた集団下校であるが、ここにおいてどのような課題が見出せるのだろうか。図2-7は集団下校において項目としてあげた事柄があったかどうかを尋ねた結果を示したものである。
図2-7.東日本大震災の集団下校の際につぎのようなことがありましたか。(%、N=374)
教師が個々の家庭に子どもを送り届けなかったと回答したのはおよそ4割の保護者であった。また、保護者が家にいなかった子どもへの対応が不十分だったと認識している保護者は4人に1人の割合で存在している。また、当時かなり大きな余震が続いたが、その中で子どもを帰宅させたケースは集団下校をしたうちの3割に上っている。首都圏であってもかなりの揺れが感じられた今回の震災にあって、それぞれが状況に応じた判断を下さざるを得ない中での避難行動であったが故に、質問として尋ねた3つの事柄そのものが問題であると指摘することはできない。しかしこれらの集団下校において見られた事柄について不満を感じている保護者も見受けられる。
表2-8は、集団下校の際に教師が個々の家まで子どもを送り届けなかったことに対して不満を感じている保護者の割合を、いくつかの属性によってまとめなおしたものである。
表2-8 集団下校の際に、教師が個々の家まで子どもを送り届けなかったことに対して不満を感じている保護者の割合。(全体・学年別・大人の在宅別・保護者の性別、%)
N | 不満に思う | |
---|---|---|
全体 | 155 | 25.8 |
低学年 | 38 | 31.6 |
中学年 | 58 | 29.3 |
高学年 | 59 | 18.7 |
男性保護者 | 63 | 23.8 |
女性保護者 | 92 | 27.2 |
震災時大人在宅 | 97 | 18.6 |
震災時大人不在 | 58 | 38.0 |
※「不満に思う」は「とても不満に思う」と「まあ不満に思う」の合計
全体では約25%、すなわち4人に1人の保護者が不満を感じていると答えている。以下、母数が少なくなるため注意しなければならないが、学年別では低学年になるほど不満を感じる保護者の割合が多くなるようである。子どもが大きくなるにつれてこうした面への不満が減少していることを考えると、学年に応じた避難のあり方を考慮する余地があるのかもしれない。保護者の性別に関しては男性・女性で大きな違いは見受けられなかった。それよりも、震災時の大人の在宅状況別では不満を感じる割合にやや大きな差が見られる。
すなわち震災時に大人がいなかった家庭の方が、教師が子どもを送り届けなかったことについて不満を感じる割合が高い。つまり、そこには子どもを1人にしてしまった可能性があったと考えられるわけであり、保護者の感じる不満もおそらくはそこにあるのではないかと思われる。
表2-9は、保護者が家にいなかった子どもへの対応が不十分だったことがあった認識している保護者のうち、それらに対して不満を感じている者の割合をいくつかの属性別にまとめたものである。
表2-9 集団下校の際に、保護者が家にいなかった子どもへの対応が不十分だったことに対して不満を感じている保護者の割合。(全体・学年別・大人の在宅別・保護者の性別、%)
N | 不満に思う | |
---|---|---|
全体 | 96 | 84.4 |
低学年 | 21 | 87.7 |
中学年 | 39 | 87.2 |
高学年 | 36 | 80.5 |
男性保護者 | 24 | 83.3 |
女性保護者 | 72 | 84.7 |
震災時大人在宅 | 49 | 81.6 |
震災時大人不在 | 47 | 87.3 |
※「不満に思う」は「とても不満に思う」と「まあ不満に思う」の合計
全体でも8割以上と非常に高い割合で不満を感じていることが明らかとなっている。学年別では低学年の児童の保護者の方が不満を感じている。性別では大きな差はないものの女性の保護者の方が若干不満を感じている割合が高い。また、震災時に大人が在宅していない家庭の保護者の方が不満を感じていることが明らかである。小さい子どもに対する対応、大人不在の家庭への対応に対して、十分な再検討が求められているのかもしれない。
表2-10 集団下校の際に、余震が続いていたのに早々に子どもを帰宅させたことに対して不満を感じている保護者の割合。(全体・学年別・大人の在宅別・保護者の性別、%)
N | 不満に思う | |
---|---|---|
全体 | 126 | 51.6 |
低学年 | 32 | 46.9 |
中学年 | 44 | 65.9 |
高学年 | 50 | 42.0 |
男性保護者 | 49 | 38.8 |
女性保護者 | 77 | 59.8 |
震災時大人在宅 | 73 | 42.5 |
震災時大人不在 | 53 | 64.2 |
※「不満に思う」は「とても不満に思う」と「まあ不満に思う」の合計
表2-10は余震が続いているにもかかわらず早々に子どもを帰宅させたことがあったと認識している保護者のうち、それらに対して不満を感じている保護者の割合をまとめたものである。全体でみると約半数の保護者が不満を感じている。
学年別では小学校3・4年生に該当する中学年の保護者が不満を感じているようだ。これは学年そのものが影響しているというよりも、集団下校をさせるかどうかの判断をしたタイミングや当日の時間割などが影響していることも考えられる。保護者の性別で見ると男性保護者の約4割が不満を感じているのに対して女性保護者の約6割が不満を表明していた。さらに、震災時の大人の在宅状況別にみると、やはり大人が在宅していなかった家庭の保護者の方が不満に感じている割合が高くなっている。
このように見てみると、集団下校の検討課題として指摘できるのは、低学年をはじめとする小さな子どもの下校をどうするか、とりわけ帰宅しても大人がいないという状況に置かないための方策をどう考えるかということである。保護者側の不満は、集団下校そのものよりもむしろ集団下校して帰宅した後、その子どもが誰とどう過ごすのかということが必ずしもはっきりとしていないという点に対するものだと考えることができるだろう。