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小学生白書Web版 2011年6月調査>分析編>

第3章 家庭状況別にみた東日本大震災発生時の下校の困難さ

(明治学院大学非常勤講師:渡辺恵)

2.子どもの下校に伴う困難さ
(1)震災時における子どもの下校に伴う家庭の課題

 子どもの下校に関わって、保護者はどのような困難を抱えることになるのだろうか。調査では、子どもの下校に関わる大変さにつながる事が震災当日にあったかどうかを尋ねている(図3-4)。

帯グラフ

図3-4.震災時に子どもの下校に関わる困難な状況が「あった」割合(%)

 まず、学校との関係において、保護者がどのような困難を抱えていたのかを見ておこう。「学校の被災状況が分からなかった」及び「学校がどのように下校させるのか分からなかった」と回答する保護者が3分の2程度と、多くの保護者が学校の状況や対応の情報を入手することが困難であったことが窺える。3月の東日本大震災が発生した時間は、多くの小学生が未だ学校にいる時間帯であった。そのため、保護者は学校の状況や対応などに関する情報を欲していただろうし、学校は当然、メールや電話による緊急連絡網等を通じてそうした情報を流していたであろう。しかし、調査結果から、多くの家庭ではそれらの情報があまり伝わっていなかったことが窺える。この点で、今回の地震は、災害時に学校と連絡を取るための適切な方法が何であるのかが改めて問われることになったのではないだろうか。

 次に、子どものことに関して、保護者が抱える困難点をみておこう。災害時には、子どもを持つ家庭では、子どもの所在を確認することや、子どもがひとりで過ごすことがないように対応することが何においても優先されると思われる。しかし、災害に伴う混乱により、保護者はそれらに対応できない場合もあろう。今回の震災では、どうだったのだろうか。「子どもがどこにいるのか分からなかった」と回答している保護者が3分の1程度であり、「子どもをひとりにしてしまう時間があった」と回答する保護者は2割強である。子どもの所在を確認することが困難だった家庭や、下校後に子どもがひとりで過ごすことがあった家庭が少なからず存在していたことが見て取れる。

 こうした子どもの所在が分からない、保護者が子どものもとに戻れないなどの場合には、周囲からのサポートが得られるかがそれらの問題を解消する鍵となろう。この点はどうであったのか。全体では、「子どもの状況について誰に相談したらよいのか分からなかった」と回答する保護者が約3割、「あなたやあなたの配偶者の変わりに、子どもを見てくれる人をさがすのが困難だった」が約2割である。今回の震災時では、子どものことを相談する相手や子どもを預かってくれる人をさがすのに苦労した家庭は、そう多くはない。

 しかし、「子どもがどこにいるのか分からなかった」と回答する保護者に着目すると、51.9%(316人中164人)もの保護者が「誰に相談して良いのか分からなかった」と回答している。子どもの所在が確認できない家庭のうちの約半数では、子どもの所在がわからないだけではなく、子どものことを相談する相手もいないという二重の困難さが生じていたようである。また、「子どもをひとりにしてしまう時間があった」と回答する保護者のうち、やはり半分の保護者(216人中108人)が「あなたやあなたの配偶者のかわりに、子どもを見てくれる人をさがすのが困難だった」と回答している。このように、今回の震災時では、周りからの手助けが充分には得られないケースが起きている。全家庭から見れば、少ないケースとはいえ、災害時の対応を考える上では看過できないことである。