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小学生白書Web版 2011年6月調査>分析編>

第3章 家庭状況別にみた東日本大震災発生時の下校の困難さ

(明治学院大学非常勤講師:渡辺恵)

3.家庭での取り組みと震災時の保護者の困難さ

 災害時における子どもの下校に伴う保護者の困難さは、どのようにしたら軽減できるのだろうか。その手がかりを得るために、各家庭における震災前の取り組みがどの程度なされていたのか、またそうした取り組みがどの程度有効になるかを探っていくことにしよう。震災前の学校防災に関する認知度と、災害時の行動に関しての家庭での取り決めを取り上げることにする。

(1)学校とのつながりの多さは学校防災の認知度を高める

 まず、学校防災に関する認知度から見ていくことにする。その際、どのような家庭が学校防災に関する認知度が高いのかに着目していく。

 図3-6は、保護者の就労状況別にみた学校防災に関する認知である。全体的に見て、「知っていた」(「十分に知っていた」と「ある程度知っていた」の合計)と回答する割合が6割を越える項目は「学校が避難所に指定されているかどうかについて」のみである。この点で、どの家庭においても学校防災に対する関心は低いと言えよう。「共働き家庭」と「片働き家庭」では、違いが見られるのだろうか。結論を言えば、「避難訓練等の防災教育について」の項目を除けば、両者の違いはほとんど見られなかった。日常的に家を不在にすることが多い「共働き家庭」でも、学校防災に対する認知が低い傾向が窺える。先に見たように、震災時に保護者が家を不在にしていた家庭ほど、子どもの下校等に関して困難な状況を抱えていた。そのことを踏まえれば、日常的に不在にすることが多い「共働き家庭」ほど、災害に対する備えとして、学校防災に対する関心を強く持っておく必要があるのではないだろうか。

棒グラフ

図3-6.就労状況別にみた学校防災に関する認知の割合(「十分に知っていた」と「ある程度しっていた」の合計%)

 では、普段における学校とのつながりは、学校防災に関する認知に影響を与えるのだろうか(表3-4参照)。昨年度(2010年度)に「子どもの学級担任と話すこと」が「あった」(「とてもあった」と「まああった」の合計)と回答している人と、「あまりなかった」、「まったくなかった」と回答する人で比較すると、「子どもの学級担任と話すこと」が「あった」と回答している人ほど、学校防災に関するどの項目についても、「知っていた」と回答する割合がかなり高くなっている。同様に、「子どもの学級担任以外の先生と話すこと」が「あった」と回答している人ほど、そうではない人に比べ、学校防災に関するどの項目についても「知っていた」と回答する割合がかなり高くなっている。こうした結果を踏まえると、学校防災に関わる情報を知る機会は、子どもの学級担任かどうかに関わらず、教師とのつながりを多くもつことによって、より増えると考えられる。

表

表3-4.教師との対話の頻度別にみた、学校防災に関する認知の割合(「十分に知っていた」と「ある程度知っていた」の合計%)

 「災害時の子どもの下校方法」や「災害時における学校との連絡手段」といった震災時における子どもの下校に関わる項目について触れておきたい。「災害時の子どもの下校方法」では、「学級担任と話すこと」が「あった」人のうち、約7割が「知っていた」と回答している。それに対して、「学級担任と話すこと」が「まったくなかった」人では、「災害時の子どもの下校方法」を「知っていた」と回答した人は、約3割のみである。「子どもの学級担任以外の先生と話すこと」が「あった」人では約8割であり、「まったくなかった」人では約4割である。「災害時における学校との連絡手段」に関しても、同様の傾向が見受けられる。このように、学校の教師とのつながりがある人とない人では、災害時における下校方法や学校との連絡の取り方に対する認知に大きな差があることがわかる。言い換えれば、東日本大震災のときに、学校とのつながりが強くあった人ほど、子どもがどのように下校するのか、どのような連絡があるのかを予め知っており、保護者はそのことに基づいて対応できたと考えられる。

 ところで、学校は、学校防災に関する保護者への周知をどのように位置づけているのであろうか。文部科学省は、阪神淡路大震災における経験と課題を受け、1995年6月~1996年9月にかけて、学校等の防災体制の充実に関する調査研究協力者会議を実施し、「学校等の防災体制の充実について」の報告文をだしている。この第2次報告(1996年9月2日)では、学校防災に関する計画作成の指針が打ち出され、学校防災の取り組みの方向が示されている。具体的には、防災のための体制づくりに関する指針の他、「日ごろから講じておくべき措置」として、施設・設備の管理及び点検・整備や防災教育の実施、学校と教育委員会及び災害対策担当部局との情報連絡手段の整備などがあげられている。そして、この中に、「保護者へは学校の防災体制及び措置、特に児童等の引渡し方法を周知させる必要がある」という文言がある。つまり、学校防災に関して、日頃から保護者にも伝えおくことの必要性が指摘されていると言える。しかしながら、先の結果に見て取れたように、学校との連絡手段や災害時の下校方法などの学校防災の措置に関して、保護者に十分に周知されていたとは言い難い。学校防災の体制や措置に関する保護者への周知徹底の努力は、学校の今後の課題となるであろう。