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小学生白書Web版 2011年6月調査>分析編>

第2章 学年別にみた東日本大震災時の下校の実態

角替弘規(桐蔭横浜大学准教授)

2.震災時の家庭での取り決めの実態
(1)低学年児童との話し合いや約束に課題か

 今回の調査では、地震が起きた際にどのような行動をとるか、家庭内において話し合いや約束がされていたかどうかについても尋ねている。その質問に対する全体の回答結果を図2-2に示す。

図2-2 「東日本大震災(3月11日)が起こる前に、家庭でお子さんと次のことについて、話し合ったり約束したりしていましたか」への回答(%、N=927)

 これによると、地震が起こった際の退避行動については約7割の家庭において何らかの話し合いや約束がなされていることがわかる。しかしながら、災害時に保護者と子どもがどのように連絡を取るか、保護者と連絡が取れない際に子どもがどこに避難するか等どのような行動をとるか、最終的に家族がどこで落ち合うかといった事柄について、話し合いや約束がされていたのは全体の3割強といったところであり、6割以上の家庭においてはそうした取り決めがなされていなかったということが明らかとなった。

 これについて、学年別に比較したものが表2-4である。

表2-4「東日本大震災(3月11日)が起こる前に、家庭でお子さんと次のことについて、話し合ったり、約束したりしていましたか」への回答(「していなかった」の%、学年別)

  低学年
(N=309)
中学年
(N=309)
高学年
(N=309)
地震が起こった時にすぐに取るべき行動(机の下にもぐる等) 31.4 28.8 31.4
災害時の保護者との連絡のとり方 71.5 67.6 62.8
災害時に、保護者と連絡が取れない時の行動(近所の家に行く等) 70.9 65.4 65.7
災害時の、家族全員の最終的な待ち合わせ場所 68.0 66.0 61.2

 地震が起こった時に取るべき行動については、いずれの学年においても3割前後の家庭が話し合いや約束を「していなかった」と回答している。すなわち、7割前後の家庭において何らかの話し合いや約束が行われていたということである。しかしながら他の3項目(「災害時の保護者との連絡方法」、「保護者との連絡が取れない際の行動」、「最終的な家族の待ち合わせ場所」)については、低学年になるほど話し合いや約束を「していなかった」家庭が多い傾向が見受けられた。「災害時の保護者との連絡のとり方」では低学年と高学年との間におよそ1割の差が生じている。災害時の行動、特に咄嗟の場合の避難行動以外の部分は、成人であっても判断や行動をどうするか迷うこともあり、特に低学年の児童を相手に話し合ったり約束したりということ自体が難しさを伴うものであるかもしれない。

 最も年齢の低い低学年児童は最も厚い保護が与えられるべき存在であると考えられるだけに、災害時にどのような行動をとるかについても慎重に約束しておくことが大事であろう。しかし低学年の児童に対して判断の難しい行動や複雑な行動を求めることもまた困難であろう。こうしたことは、低学年の児童に限らず乳幼児も含め小さい子どもを抱えた家庭の災害対策上の一つのジレンマということができるだろう。それ故に、子どもを抱えた家庭に対しては、家庭内での対策を求めるだけでなく、地域社会や学校がこうした家庭をいかに支えていくかということもあわせて検討する必要があるのではないかと思われる。