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(明治学院大学非常勤講師:渡辺恵)
各家庭は、災害時における行動に関して、子どもとどのようなことを話したり、約束したりしているのだろうか。このことを保護者の就業別に見ると、図3-8となる。全体的にみて、「地震が起きたときに、すぐにとる行動」を除けば、災害時に保護者が不在の際、子どもが取る行動に関して予め決めている家庭が少ないことが窺える。「共働き家庭」と「片働き家庭」を比較すると、災害時の行動に関して子どもと取り決めしていた割合には、大きな差は見られない。ただ、「災害時に、保護者と連絡が取れないときの行動」に関してのみ、「共働き家庭」の方が子どもと取り決めをしている傾向がやや強く見受けられる。この点に関して、「震災時の家庭での取り組みで良かったこと」に、保護者が共にフルタイムで働いている家庭の回答には「家を集合場所にしていたのは正解だった」、「なにかあったときには学校に集まることを決めた」といった記述が見受けられた。「共働き家庭」の場合、災害時に親が家にいない可能性が高いため、そのことを懸念して、災害が起きたときに子どもが頼りにする先を決めていたのではないだろうか。もっと言えば、今回の震災経験を通じて、そうしたことを予め決めておく必要性を感じた家庭が増えたのではないだろうか。
図3-8.就労状況別にみた、災害時の行動に関して家庭で取り決めを「していた」割合(%)
では、災害時における行動に関して子どもとの約束事は、震災時の困難さを回避することに役立ったのだろうか。このことを探るために、災害時における行動に関する子どもとの取り決め状況を示す尺度(以下、「家庭での取り決め度」と記す)を作成する。先にみた家庭での取り決めに関わる4つの項目の回答を、「していた」を1点、「していなかった」を0点とし、全ての項目の合計点(0〜4点)を算出した。その合計得点の分布をもとに大きく2つの群にわけ、0~1点までを学校防災認知度の「低群」、2~4点を「高群」とした(表3-7)。
人数 | 割合 | |
---|---|---|
低群(0〜1) | 509 | 54.9 |
高群(2〜4) | 418 | 45.1 |
表3-7.災害時の行動に関する家庭での取り決め度
図3-9.家庭での取り決め度別にみた、震災時に困難な状況が「あった」割合(%)
図3-9は、災害時の行動に関する家庭での取り決め度の状況別に、震災時に子どもに関わり困難な状況と考えられることが「あった」と回答された割合を表したものである。「家庭での取り決め度」の「低群」と「高群」では、「子どもがどこにいるか分からなかった」、「子どもの状況について誰に相談したらよいのか分からなかった」、「子どもをひとりにしてしまう時間があったこと」の3項目において、「低群」の方が「あった」と回答している割合がやや高くなっている。今回の震災以前に災害時の行動を子どもとあまり決めていなかった家庭ほど、子どもの所在が確認できない、子どもがひとりになるといった、保護者が不安に駆られる状況に陥りやすい傾向があったことが窺える。
このような傾向は、表3-8の結果に示されているように、「不在家庭」においてより顕著に窺える。例えば、「不在家庭」では、「子どもがどこにいるのか分からなかったこと」が「家庭での取り決め度」の「低群」では46.0%と、半数近くの家庭で「あった」ことがわかる。それに対して、「高群」では34.8%と、「低群」よりも1割程度低くなっている。「子どもをひとりにしてしまう時間があったこと」に関しては、「低群」では42.9%であり、「高群」では29.8%と、やはり「高群」の方が13ポイントほど下回っている。言い換えれば、震災時に大人が不在であった家庭では、予め災害時の行動を家庭で決めていたことが、保護者が不安を抱えるような状況を回避することに多少なりともつながっていたと言えよう。なお、「在宅家庭」では、「不在家庭」ほど、「家庭での取り決め度」による違いが見受けられない。この点から、災害時の行動に関する決めをしておくことは、子どの下校時に保護者がいない家庭においてより効果を発揮すると推察される。
表3-8.震災時の大人の在宅/不在宅別、家庭で取り決め度別にみた、震災時に困難な状況が「あった」割合(%)