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シリーズ「教育大変動」を語る
第1回
「義務教育国庫負担金はどう審議されたか?」
国としてのシンボルと中立性の問題
- 古川:
- 10月26日の答申後、政府・与党合意の下、負担率が2分の1から3分の1に修正されました。今後さらに、地方交付税の見直しとともに全廃ということも検討されるかもしれません。
- 藤田:
- これには二つの問題があります。第一に、義務教育費国庫負担金には、日本社会が国民の総意として義務教育を重視しているということ、国がその条件整備に責任を持つということを示す象徴的意味があります。ですから、その負担割合を減らすということは、その象徴的な意味を低下させることになります。
もう一つは、義務教育・教育行政の安定性・中立性に関わる問題です。義務教育運営費の大半は教職員給与費ですが、これまで、その費用は、教職員定数の標準法と義務教育費国庫負担制度などに基づき、どの自治体でも、財政事情や政治的判断に左右されることなく、安定的に確保されてきました。しかし、それが地方に下りれば、首長・議会が、毎年、その額を決めることになります。教職員定数は標準法で決まっていても、給与水準はどうするか、加配分や少人数学級のための予算をどうするか、外部委託や民営化が進むなかで専任教職員の割合をどうするかなど、すべて首長や議会が決めることになります。
そうなると、第一に、財政力の弱い自治体を中心に教育条件の低下が起こる危険性があります。第二に、教育予算が時々の政治的判断に左右され、不安定になる危険性があります。第三に、人事権をはじめ様々の権限を持つ自治体・首長の影響力が強まり、教育行政の中立性・自律性が揺らぐ危険性があります。現場に近い都道府県や市区町村が財政権も人事権等の権限も持つようになれば、現場への締め付けは今よりもっとダイレクトに及ぶようになります。説明責任や成果主義的評価が重視される最近の改革動向の中で、この問題は軽視されがちですが、その弊害や危険性はけっして軽視すべきではありません。
- 古川:
- 教員のモラルに対する影響は考えられますか?
- 藤田:
- どのくらい深刻な影響があるかは他の改革によっても違ってきます。国が教育を必ずしも重視していないということになれば、教職希望者の質の低下を招きますし、それは教職員の身分が不安定になっても同様です。教員免許更新制が導入されるとか、成果主義的な教員評価が広まれば、信念の低下や迎合的な構えの拡大などを含めて、モラルと質の低下が進みます。人事権が市町村や学校に下りていけば、欧米で見られるように、条件のいい学校や地域に移ろうとする教師が増えますから、地域間格差が拡大するだけでなく、教師の連帯や協力体制にも悪影響が及びます。(次号へ続く)
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