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今回の調査は、全国各地に居住する小学生1~6年生男女各600名、総合計1200名とその保護者計1200名を対象として、大きく[1]日常生活に関わる項目[2]学習に関わる項目[3]グローバル意識に関わる項目に分けた興味深い調査となっている。
特に、[1]では小学生の基本的な生活リズムなど定番の質問に加え、ICT環境の急速な変化を受け、小学生の通信機器の利用実態について去年から詳しく調査している。
また[2]の学習に関わる項目では、新学習指導要領の実施に向け、「将来役に立つと思う科目」を設けた。これまでのOECDの調査などでは我が国の15歳は他国の子どもより高得点を得てはいるものの、学習意欲の低さや今の学習が将来役に立つと思う割合が低いことが挙げられてきた。今回の質問項目からは、具体的に子どもが将来役に立つと考える科目は何なのかをうかがい知ることができる。また、小学生と保護者それぞれが学校生活に求めることが異なる点も興味深い。
[3]では、グローバル意識に関して、外国に対する小学生と保護者の興味関心の違いや行ってみたい国、留学に対する興味などを調査している。さらに、東京オリンピックが現実味を帯びてきている現在の子どもたちの意識にも注目している。
近年、睡眠時間の質が問われている。合計の睡眠時間の長さよりも就寝時刻と起床時刻をどこに置くかが重要だということである。睡眠が児童の学力や成長発達に影響を与えることは近年の内閣府等の調査や医学的な研究報告から知られているところである。起床時刻や就寝時刻については前回調査と比較して顕著な変化は感じられないが、平均的には6年前の調査より起床時刻が早くなっている傾向にある。その中では、3年生が男女共に起床時刻が遅くなるのは、小学校生活にも慣れ、朝の支度などに余裕が持てるようになったことと、5・6年生に比べて学校での役割がなくそれほど早く登校する必要がないからだと考えられる。
就寝時刻については、子どもが夜型人間になってきていることが明らかになった。22時以降に就寝する子どもの割合は2016年時点で53.5%と、なんと小学生の約半数は22時以降に就寝するという結果である。
また、低学年の就寝時刻が早いことは想像つくが、就寝時刻が23時以降と遅い子どもに関しては学年差があまり見られない。これは学年による体力差よりも、保護者の働き方や生活環境に子どもたちが左右されているように思われる。起床時刻が早まったことと併せて考えると、小学生の寝不足の実態は大変深刻であると考えられる。
小学生の朝食については近年の調査では大きな変化は見られないが、今回の調査では4年生男子は10%、10人に1人が朝食抜きの結果となった。体が小さい小学生にとってエネルギーが不足した状態で登校することになり、授業中の居眠り、あくび、集中できないなどのさまざまな状況が容易に想像できる。基本的な生活リズムを整えるのは小学生の正常な心身の発育を促す意味からも、保護者には真摯に考えてほしい事柄である。
テレビの視聴時間が減少している。2013年の調査では、放課後2時間以上テレビを見る子どもが男子42.8%、女子46.3%であったのに対し、2016年の調査では男子15.8%、女子17.5%と激減している。1時間未満のグループでは2013年41.2%、2016年41.1%とほぼ同じであることから、1日に1時間以上2時間未満テレビを視聴する子どもが大きく増えていることになる。一方で、通信機器の使用時間調査では、1日に1時間以上使用すると回答した子どもが54.8%と半数以上存在した。
2時間以上テレビを見ていた子どもたちは、この短期間にテレビの視聴からパソコンやスマートフォンなどを使用したゲームやネットでの多様な検索、メール、ラインなどのコミュニケーションツールの利用へと時間の使い方を変化させてきている可能性がある。
習い事の項目で興味を引くのは「英語」である。2015年の調査では9.3%で6位であったが、2016年は16.4%で3位と、1年間で大きく数字を伸ばしている。また、塾や習い事は学年差が大きい傾向が読み取れるが、英語に関してはどの学年もまんべんなく分布しているのも大きな特徴である。2020年の学習指導要領の完全実施で小学校の外国語教育が本格化することや、東京オリンピック・パラリンピックの影響が大きいと考えられるが、これからますます進展するグローバル社会に備えて、我が子に英語を自由に使いこなして世界で活躍してほしいとの保護者の願いが読み取れる。
「好きな科目」「嫌いな科目」では、好きな科目がないと回答した小学生が平均で8.8%、特に1年男子は15.0%も存在することが明らかになった。物事の好き嫌いはそれぞれの興味関心の度合いと関連している。興味関心は家族や友達などとの様々な自然体験、創作活動、芸術鑑賞や遊び、図鑑や本に親しむなど、多様な社会生活を過ごす中から自分の中に自然と湧き出るものと思う。好きな教科がないと回答した児童が、体験不足の影響でそのように答えたのでないことを願いたい。体験は人の活動の源泉でもある。小学生の時代に出来得る限り様々な体験活動を行ってほしい。
「将来役に立つと思う科目」で「算数」「国語」が上位にあることは、小学生が授業で習ったことを日常生活で使っていると意識している証拠であろう。その他の教科については、子どもに日常生活との関連を意識させる授業ができていないのではないかという指摘は強すぎるだろうか。深い学びとそれを活用できる思考力・判断力・表現力の育成を全教科で展開することが求められている。授業の改善への挑戦に心から期待したい。
また、「将来役に立つと思う科目」に「外国語活動(英語)」と回答したのは3.1%であった。特に現在外国語活動(英語)を行っている小学5年生女子からは18.0%とかなり高い評価を得た。子どもが外国語(英語)の必要性を強く感じていることがわかる。この傾向は今後ますます強くなっていくことが予想され、小学校段階の外国語(英語)授業の質的な充実と環境整備が子どもたちからも求められていると言えよう。
「読書に関する項目」では、「月に1冊も読まない子ども」の比率が2014年は15.4%、2015年は21.0%、2016年は25.9%と年々上昇し、2014年から10%以上も上昇している。読書は子どもの学習環境、家庭環境によっても大きく左右される。様々な本から得られる感動や不思議さや面白さなどは子どもの好奇心を刺激する。そして主体的な学習意欲の元となる興味関心を広げてもらうためにも、子どもの読書環境を工夫する必要があると感じる。
電子書籍の読書数は微増という結果だが、学年によって結果が異なっている。保護者が電子書籍を使用する影響が子どもにも表れているものと思われる。今後とも注視していく必要を感じる。
「通信機器に関する項目」では、コミュニケーションツールとしての利用率は男子より女子の方が高く、勉強のための情報収集のための利用は、男女差があまり見られない。通信機器の利用サービスではYouTubeがメールやLINEより使用率が高く、将来就きたいと思う職業に10年前にはなかった「YouTuber」が複数見られたことも、小学生の利用実態の変化を表している。読書との関連では、1日当たりの通信機器利用時間の長さと、1ヶ月間に読んでいる本の冊数のクロス集計結果で通信機器利用時間が長いほど読書量は少ないのは当然ともいえるが、通信機器の利用内容との関係が不明なため、相関を調べるにはより詳細な調査が必要になる。
渡航経験に関する調査によると、2013年の調査では「1回」が9.5%、「2回」が4.9%、「3回」が2.7%、「4回」が1.0%、「5回以上」が4.4%、「行ったことはない」が77.7%で、2016年では「1回」が9.3%、「2回」が4.8%、「3回」が3.1%、「4回以上」が4.7%、「行ったことがない」が78.2%と、3年前と大きな変化は見られないが、今回の2016年調査では「行ったことがない」78.2%に対し、2016年の「4回以上」4.7%と小学生の渡航経験には大きな個人差を感じる。国内において他文化や他言語にふれられる機会を増やし、子どもたちの経験の差を埋める努力も必要になっていると感じる。
行きたい国として、「アメリカ」を約3割の小学生が選択した。学年差もほとんど見られない。ディズニーランドやハワイ旅行、メジャーリーグやバスケットボールの観戦などアメリカへの親しみやすさと、英語はアメリカの言葉という認識があるという点が興味深い。
「行きたいと思う国はない」と回答した子どもも40.0%存在する。理由としては「特に理由はない」が45.5%と最も多い。また。この問いに「外国語がしゃべれないから」と回答した子どもたちが、外国語が教科化され英語の学習を積んだ後、意識に変化が見られるのか興味深い。今後このような調査で、「外国に行きたい理由」に「勉強した英語を試してみたい」などと回答する子どもが増えるような授業を期待したい。
「留学」に関しては、約3割の小学生が肯定的に考えている。2013年の同調査より3%ほど減少しているが、国際的なテロなどの危険な事件が多く発生しているのも影響しているのではないであろうか。渡航経験の有無で留学への興味関心が大きく異なるのは当然のことだろう。渡航経験者はより外国を身近に感じることができ、渡航先での様々な感動体験などにより外国で学んでみたいという意欲・興味関心が生まれるのだろう。
「オリンピック・パラリンピック」に関しては、多くの小学生が関心を寄せていることが分かる。これから、東京オリンピック・パラリンピックに関連して様々な教育やイベントが実施されていくことになる。東京だけではなく、全国の小学生に対して多様な学習の場を設け、他国の人々との文化交流などを通して国際理解教育を進め、小学生の視野を広げてほしいと願っている。
夏休みの長さや意識などについてだが、近年学習時間の確保のために夏休みを短縮する自治体が増えている。小学生にとって夏休みは日常では時間的にも十分経験できない様々な体験学習を積むことができる貴重な期間である。子どもたちの興味関心を広げたり深めたりする中で自立心を養うことも重要であり、子どもたちには思う存分自由に活動してほしいと思う。
学校に対する意識の調査では、保護者と子どもで大きく差があることが分かる。保護者は学校に社会規範意識を育ててほしいと一番に願っており、学習よりも期待度が上位にある。また、満足度でも保護者と児童では差があり、保護者の方が学校に対する満足度が8%ほど低い。一方で、「学校に求めることはない」と回答した保護者は、学校に対する満足度も低い結果となっている。効果的な教育を進めるためには、学校と児童・保護者との信頼関係をより深めることが重要である。今後とも関係者が十分意思の疎通を図り、教育の質の向上を目指すことを期待したい。