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TOP > 小学生白書Web版 > 2015年10月調査
今回の調査は、小学生1~6年生を対象として、大きく [1]生活に関わる項目、 [2]学習に関わる項目、そして[3]人間関係・自己認識に関わる項目によって構成された調査となっている。特に興味深い点としては、(1)の小学生を取り巻くICT環境が急速に変化する中で、小学生の通信機器の利用実態について詳しく調査している点、(2)の小学校の外国語活動の教科化を見据えた、小学生の現行の外国語活動に対する授業評価を取り上げている点が挙げられる。さらに次期学習指導要領に盛り込まれるアクティブ・ラーニングを構成する授業形態の一つである、グループ学習に対する児童の評価も注目に値する。また(3)では、小学生の人間関係上のトラブルや事件の増加が指摘される昨今の状況、また日本の子ども達の自己肯定感の低さが話題となっている点を踏まえ、小学生の自分自身についての認識や人間関係の実態について調査している。これらの調査は、いじめや不登校を含め、子どものさまざまな問題行動を分析し課題解決を図る上での貴重な資料になるものと考えている。
起床時刻や就寝時刻が児童の学力や成長発達に影響を与えることは、近年の調査や医学的な研究報告から知られているところである。起床時刻や就寝時刻については前回調査と比較して顕著な変化は感じられない。しかし6年女子は「就寝時刻が午後11時以降」の割合が35%と他の学年や6年男子と比較して多くなっている。携帯メールやラインなどの使用割合も比較的に高いことと併せると、6年女子のコミュニケーションツールを利用する時間が就寝時間に影響している可能性について、今後調査を行う必要性があると感じる。
読書については、前回調査と比較して「読まない子ども」の比率が15.4%から21%と約6ポイントも上昇している。読書について二極化が進んでいるとすれば、大きな課題が生じているということになる。読書は子どもの学習環境、家庭環境によっても大きく左右される。様々な本から得られる感動や疑問、おもしろさなどは、児童の好奇心を刺激する。主体的な学習意欲の元となる興味関心を広げるためにも、児童の読書環境をより豊かに工夫する必要があると感じる。
また、学年進行に伴う読書離れについて、以前は中学受験の影響も指摘されていた。今回の調査ではそのことに加え、通信機器の使用時間との関連も考慮する必要を感じた。それは「1か月に読む本の冊数と通信機器利用時間とのクロス集計」の結果である。「通信機器の利用時間が30分未満の子」は「1冊も読まない」割合が18.2%であるのに、「通信機器の利用時間が2時間以上の子」は「1冊も読まない」割合が43.2%にもなっている。子どもの家庭生活や教育でも、今後ますます通信機器の活用が進むことを考えると、読書と通信機器の特色や質を十分考慮した活用方法の研究が必要なのではないだろうか。
好きな教科、嫌いな教科については以前の調査傾向と大きな変化はないように感じる。中学校・高校に続く小学校段階で特定の教科について苦手意識などが強くあると、学習への期待感や意欲が持てなくなる。その意味では「嫌いな教科はない」が26.2%でトップになっているのはよい傾向であると思われる。
「グループ学習」については大変興味深い調査となった。全体的には、「グループ学習が好き」25.9%、「どちらかといえば好き」35.3%と、計61.3%の児童が概ね肯定的な回答をした。興味深いのは、小学校最高学年である6年生の「グループ学習」において「どちらかといえば嫌い」「嫌い」の合計が男子6.0%、女子17.0%と大きく異なっている点だ。グループ学習でよくなかった理由でも、女子は「協力しない人がいた」32.0%、「意見がまとまらなかった」25.8%、「役割分担がうまくいかなかった」20.6%などを挙げたが、男子は「特にない」が30.9%、「意見がまとまらなかった」20.6%、「役割分担がうまくいかなかった」16.5%と男女の受け止め方に違いが見られた。
一方、グループ学習の良かったことでは、「一緒に調べるのが楽しかった」「他の人の意見が聞けた」「他の人と教え合えた」「授業がおもしろかった」など肯定的な意見が男女共通に示された。グループ学習は今回示された児童の意識調査も参考にして、アクティブ・ラーニングの基本的な授業形態の一つとして充実改善することが求められる。特に、学習のねらいを達成するためには、一人一人が学習に対する目的意識・学習課題を明確に持ち、その目的・課題を解決するための十分な話し合いや協働学習ができる学級集団として成熟する必要があるだろう。
勉強をしていていやだなと思うことでは、「宿題が多い」37.7%、「テストがある」31.4%、「授業がわからない」21.5%となっている。いずれも納得できる素直な数値である。この中で注目したいのは、「いやだなと思うことはない」という項目の変化である。一年生の42.5%から学年が進行するにつけて数値が下がり6年生では23.5%と約20ポイントも下がってしまう。このことは、国際的な調査でも示されているように、我が国の子ども達が諸外国の子ども達に比べ学習意欲が低いことと無関係とは言い難い。
「自分のことを好きですか」という質問において、「好き」「どちらかというと好き」が2010年の調査では計93.1%、今回の2016年調査では計76.0%という結果になっている。これは、今回の調査選択項目において「わからない」18.3%が選択できたことからこれらの数値になったものと思われる。
「自分の好きなところ」の調査では、「友だちと仲がいいところ」45.4%、「性格」23.3%などの「対人関係の中で自分の内面を評価する項目」のほうが、「スポーツが上手いところ」「顔」「成績がいいところ」などの「他との外的な比較を通した能力を評価する項目」よりも高いポイントを示している。これは小学生にとって友人関係が大切であることを強く物語っていることが見て取れる。
逆に「自分の嫌いなところ」の調査では、「スポーツが上手くないところ」17.9%、「人と同じようにできないところ」10.4%、「成績がよくないところ」8.8%、「スタイル」8.5%など、他との外的な比較の中で自分自身を評価している面がうかがえる。子ども達がグローバル社会において、主体性を発揮しながら多くの人々と協働し創造的に生きていくためにも、互いの個性を尊重し合いながら共に成長していけるよう環境を整え導いていく必要を感じる。
「友人関係」についての調査では「うまくいっている」30.6%、「まあうまくいっている」49.0%が計79.6%であり、「うまくいっていない」2.3%、「あまりうまくいっていない」2.4%が計4.7%であった。数字上では問題が少ないようにも感じられるが、数ではとらえられない部分に問題が内在して可能性があるため、子ども一人一人を常に見つめ見守っていることが何より重要であることを肝に銘じる必要がある。
最後に道徳の授業についてである。道徳は教科化が決定した。現在教科書の検定作業が進められており、来年度には教科書採択が各教育委員会で行われる。この調査からは学年が進むにつれて「好きでも嫌いでもない」割合が増えている(1年生34.0%から6年生50.0%)ことがわかる。これらの数値の変化は「道徳の時間」(2018年からは教科「道徳」)に対する子どもの意識を率直に表しているように感じる。年間35時間学ぶことになる教科「道徳」の授業で、自他の様々な価値観を知るきっかけになってほしい。そして学び合いながら互いを尊重する心や豊かな心、コミュニケーション能力や対人関係の在り方、倫理観、公共の精神などに触れ、子ども達が自分らしく生きていける学びとなるよう心から期待したい。