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渡辺恵(明治学院大学非常勤講師)
理科に関わる学校教育は、将来的には、理系分野の専門的な教育につながっていこう。小学6年生の子どもを持つ保護者は、子どもが将来理系分野の専門的な教育を学校で受けていくことに関して、どのように捉えているのだろうか。そこで、高校以上の進学を期待している保護者に、「子どもが将来高校以上に進学した時に、文系と理系のどちらに進んでほしいか」を尋ねてみた。図2-8は、その結果である。
図2-8.子どもが高校以上に進学した時に、進んでほしい専攻分野
(全体、子どもの性別・出生順位別)
図2-8の「全体」を見ると、一番多かった回答は「わからない」であった。この場合の「わからない」は、学業における子どもの得意分野がまだ明確ではないといった理由や専攻する分野は子どもの判断に任せるという保護者の構えも含まれていると思われる。次いで高い割合の回答が「理系」である。子どもが進む専攻分野に関して希望を持っている保護者のなかでは、理系分野に進むことを期待する人が多いことが見て取れる。保護者には「理系」が人気のようである。
ただし、「理系」人気は子どもの性別によって異なるようである。子どもの性別・出生順位別に着目すると、子どもが男子の場合、出生順位に関わらず、「理系」に進むことを希望する保護者が約半数おり、「文系」に進むことを希望する保護者に比べ、40ポイントも多い。子どもが男子である家庭では、「理系」が支持されていることがわかる。それに対して、子どもが女子の場合、出生順位に関わらず、「文系」と「理系」の希望がほぼ同程度となっている。「理系」に対する人気もあるが、子どもが女子の場合、「文系」に進むことを望む保護者が多くなるようである。これは、「男子は理系、女子は文系」というジェンダー・ステレオタイプの現れではないだろうか。「女性らしさ」というジェンダー規範から、子どもが女子の場合、保護者は「理系」よりも「文系」に進むことが好ましいと判断しているのかもしれない。
このように、子どもの性別による差はあるものの、小学6年生の子どもを持つ保護者では、専攻分野の選択として「理系」志向が強いことがわかった。理科は「理系」分野の教科である。とすれば、家庭内でも、将来に向けて、教科としての理科の勉強や科学的な活動への興味・関心を育てることが大切な事として意識されているのではないだろうか。
では、どのような家庭が、子どもに「理系」に進むことをより期待しているのだろうか。ここでは、保護者が望む専攻分野は子どもの性別による差が大きかったため、男子と女子に分けて見ていくことにする。
まず、保護者の専攻分野による影響を確認しておこう。図2-9をみると、子どもの性別によらず、保護者が「理系」専攻だった場合は、やはり子どもに「理系」を選択してほしいと考えるようである。子どもが男子の場合、どの家庭でも「理系」を望む割合は高いが、特に、保護者が「共に理系専攻」だった家庭では、「理系」に進むことを望む割合が79.2%と、「理系」志向がとても強い。子どもに「文系」や「それ以外」を希望する家庭は、「共に理系以外の分野」を専攻していた場合に、若干増加している。
子どもが女子の場合でも、保護者の専攻が「共に理系分野」、「どちらかが理系分野」であった家庭では、「理系」を望む割合がそれぞれ57.8%、31.2%である。どちらも「文系」を望む割合よりも高くなっている。しかし、女子の場合、保護者が「共に理系以外の分野」の専攻だった家庭では、「理系」が17.5%であり、「文系」が24.9%と、「文系」志向が強まる。
図2-9.保護者の理系分野専攻経験及び「文化的資源」別に見た「理系」志向
保護者が保有している「文化的資源」は、子どもの専攻分野に対する希望にどのような影響を及ぼしているだろうか。小学6年生の子どもが男子の場合、「文化的資源」の多群が、もっとも「理系」志向が強くなっている。「文系」の専攻を希望する割合は、多群、中群、少群においてほとんど変わらない。女子の場合では、「文化的資源」の豊かさは、子どもの専攻分野に関わる保護者のジェンダー規範を弱める働きをしているようである。「文化的資源」の多群では、「理系」が39.0%であり、「文系」が24.8%と、「理系」志向が窺える。しかし、中群になると、「理系」が24.5%、「文系」が24.1%とほぼ同程度となり、さらに、少群では「理系」が18.3%、「文系」が「24.7%」と「文系」志向が強まっている。第一項において前述したように、女子の場合では、保護者のジェンダー規範が強いためか、男子に比べ、保護者の「理系」志向が弱く、「文系」志向が強くなる。その傾向は、「文化的資源」が低い場合、より顕著に表れていると思われる。対して、「文化的資源」が多い家庭では、子どもの教育において、ジェンダー規範にとらわれない子育て方針がとられているのではなかろうか。
教育方針との関わりで、子どもが高校以上に進んだ際に、保護者が期待する専攻分野を見た結果は図2-10の通りである。図に示されているように、「学習関与志向」の教育方針では、先に見た「文化的資源」と同様の特徴が見受けられる。
図2-10.教育方針別に見た子どもに期待する専攻分野
図2-10において興味深い結果は、「多様な活動経験重視志向」の高群における保護者が期待する子どもの専攻分野であろう。保護者が共に理系専攻経験がある家庭、「文化的資源」の多群及び「学習関与志向」の強群の家庭では、いずれの特性でも、子どもの性別に関わらず「理系」志向が強まる傾向があった。しかしながら、「多様な活動経験重視志向」の高群では、子どもが男子の場合、中群(55.0%)や低群(55.5%)に比べ、「理系」の割合(48.9%)が約6ポイントも低くなり、反対に「文系」の割合が増加している。つまり、「多様な文化活動経験重視志向」が高い家庭では、「理系」志向が弱まり、「文系」志向が強まるという特徴がみられるのである。
女子の場合は、「理系」の割合(27.7%)は、低群(21.2%)と比べると高くなっているが、中群とはほぼ変わらない。加えて、「文系」の割合(26.9%)と比較すれば、ほぼ同じ割合である。「文系」と「理系」の割合のバランスに着目すると、低群では、3ポイント差ではあるが「理系」の方が「文系」より高い。高群の家庭よりも、かえって、低群の家庭の方が「理系」を志向する傾向が窺える。したがって、女子の場合も、「多様な活動経験重視志向」は、「理系」志向を促すことにつながっているとは言い難い。
以上のように、子どもの性別に関わらず、理系分野の専攻経験のある保護者や、「文化的資源」が多い家庭、「学習関与志向」が強い家庭では、「理系」志向が高まることが窺えた。これらの特性をもつ家庭では、理系分野に対する価値づけが高いようである。そうだとすれば、子どもが将来的に理系分野を専攻するように、日頃から、理科の学習に関わる働きかけを保護者は心がけているのではないだろうか。
それに対して、「多様な活動経験重視志向」が高い家庭では、「文系」志向が強まる傾向が窺えた。これは、教育達成や社会的地位の獲得に際して有利となりうる「理系」にこだわらず、子どもの得意なものを見極め、それを伸ばすことにこだわっているためではないだろうか。加えて言えば、「わからない」の割合が、「多様な活動経験重視志向」が高い家庭では、低群に比べれば低いものの、「学習関与志向」や「文化的資源」の高群に比べると、高くなっている。この点は、「多様な活動経験重視志向」が高い家庭では、将来の専攻に関して、子どもに主体的に選択させたいという意識が強いことの表れである、と見ることもできよう。したがって、「多様な活動経験重視志向」の家庭では、理科的な活動が取り組まれたとしても、それは、子どもが理系分野に進むことを意図した働きかけではなく、別の意図にもとづいて行われているのではないだろうか。