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小学生白書Web版 2012年7月調査

第2章 子どもの教育に対する家庭の方針 -理科的な活動に対する保護者の構えに着目して-

渡辺恵(明治学院大学非常勤講師)

2.理科に対する保護者の構え

昨今学校教育では理数教育の充実が掲げられているが、保護者は理科・科学に対してどのように捉えているのだろうか。学校教育と同様に、子どもの理科的な興味・関心を育てることは保護者の関心事となっているのだろうか。また、どのような特性を持つ家庭が理科的な活動経験を子どもに与えることに熱心なのだろうか。

この点を明らかにするために、理科・科学に関わる子どもの興味・関心を伸ばすことに対する保護者の構え(本節)と、家庭での理科に関わる活動の取り組み(第3節)にわけて検討していく。その際、理科・科学に関わる保護者の構えや家庭での取り組みの基盤となる資源――具体的に言えば、理科に関わる専門的知識の有無や「文化的資源」――、及び前節で検討した家庭における教育方針――子どもの学習に対する積極的な働きかけを重視する教育方針(「学習関与志向」)と、多様な活動経験を与えることを重視する教育方針(以下、「多様な活動経験重視志向」と記す)――との関わりもみていく。

なお、「学習関与志向」は、第1節で作成した、「強群」(7~9点 253家庭)、「中群」(5~6点 558家庭)、「低群」(0~4点 217家庭)の3つの群を用いる。「多様な活動経験重視志向」は、第1節の(3)で作成した「多領域の活動経験重視度」の得点をもとに、各家庭を、得点の高い順から「高群」(4~5点 222家庭)、「中群」(3点 510家庭)、低群(0~2点 296家庭)の3つの群に分けたものを用いる。3群に分けるにあたっては、できるだけ3等分になるように試みたが、どちらの教育方針も中群に該当する得点に度数が集中したため、中群の家庭数が多くなっている。

以下では、保護者の構えとして、①理科に対する子どもの興味・関心への対応、②子どもが理系分野に進むことへの期待を取り上げ、検討していくことにする。

理科的な取り組みに対する保護者の構えをみていく前に、まずは、保護者が持っている理科に対するイメージを概観しておこう。表2-3は、理科に対する回答者がもっているイメージを尋ねた結果である(4)

表2-3.理科に対する回答者のイメージ

*「とてもそう思う」または「まあそう思う」に回答があった割合

表

表2-3から読み取れる特徴的なことは、次の3つであろう。ひとつは、回答者のほとんどが、理科に対して「役に立つ」というイメージを抱いていることである。この点は、「生活が豊かになる」を「そう思う」と回答している人が約6割であることもあわせて考えると、生活面における有用性を理科に感じていることが窺える。もうひとつは、理科のイメージには、「おもしろさ」と「難しさ」が表裏のような関係にあることである。理科が「おもしろい」に「そう思う」と回答している人は約9割であり、「難しい」に「そう思う」と回答している人も8割弱である。回答者の多くは理科を、理解するのは困難であるが、興味深いものとして捉えていると言えよう。3つめは、理科に対して否定的なイメージを持っている人はどちらかと言えば少数派であることである。例えば、「弊害がある」「融通が利かない」「冷たい」といった否定的なイメージに対する「そう思う」の割合は、それぞれ29.0%、13.0%、9.5%であった。

ちなみに、「客観的である」「革新的である」「正しい」といった、法則性の発見や普遍的な真理の追究につながるようなイメージを持つ人は5~6割程度である。科学的な面と結びつけて理科をイメージする人はさほど多くはないようである。

ところで、学校での教育経験は、理科に対するイメージに影響を与えているのだろうか。特に、理系分野の教育を専門的に受けた人とそうではない人では、理科に対して抱く印象は異なると考えられる。そこで、高校以上を卒業している回答者に限定し、最終の学校段階で理系分野を専攻していた人とそうではない人と比較してみていくことにする。表2-3の「理系分野専攻経験」の一番右側の列は、理系分野専攻をした回答者が「そう思う」と回答した割合(a)とそれ以外を専攻した回答者の「そう思う」の割合(b)の差を示したものである。大きな差がみられたのは次の点である。ひとつは、「生活が豊かになる」である。22ポイントもの差がみられ、理系分野を専攻した回答者は、生活との関わりをより強く感じていることがわかる。もうひとつは、「客観的である」「革新的である」「正しい」といった項目において、約14~10ポイントほどの差があることである。理系分野を専攻していた回答者ほど、理科に対して科学的な側面をより思い浮かべる傾向が見て取れる。

また、知識や文化財など、保護者が経験し蓄積している文化的教養の程度を示す「文化的資源」の観点からみた場合、次のような違いが見受けられる。多群と少群における「そう思う」の割合の差(「(c)-(d)の欄」)に着目すると、「生活が豊かになる」というイメージは多群において高くなっている。また、次の点においては、多群と少群では異なる特徴が窺える。多群では、「出世に関係する」「受験に必要」の項目の割合が高くなっていることである。「文化的資源」が多い家庭では、理科を教育達成や社会的地位の獲得の手段として位置づける傾向が強まると言えよう。それに対して、「文化的資源」が少ない場合、「弊害がある」「融通が利かない」の割合がやや高くなっており、理科に対してややネガティブなイメージを抱きやすいようである。

以上のことから、保護者が理系分野出身かどうかや保有する「文化的資源」によって、理科に対するイメージが異なる面はあるものの、総じて、回答者の多くは理科に対して肯定的な印象を持っていると言えよう。とすれば、理科教育に対しては、どこの家庭でもある程度必要と感じているのではないだろうか。

<注>
(4) 留意すべき点は、回答者の約9割は女性であるため、母親が抱いている理科のイメージに偏っていることである。

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