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遠藤宏美(宮崎大学特任助教)
ところで、子どもの理科的な興味・関心に「理解を示す」とはどのようなことなのであろうか。どのように「理解を示」せば、子どもは「理科好き」になるのであろうか。そこでこの調査では、子どもが理科や科学への関心を持って行動していると考えられる、小学校6年生の日常にありそうないくつかの場面を設定し、仮にそのような場面に遭遇した場合、保護者(回答者)はどのように接するかを尋ねた。設定した場面と回答の選択肢は次の4つである。
回答の選択肢 | 1. 化石探しを、やめさせる。 2. あきるまでやらせておく。 3. 一緒に探す。 4. 配偶者、教師や専門家等に相談する。 5. その他 |
回答の選択肢 | 1. すぐにやめさせる。 2. あきるまでやらせておく。 3. 一緒になって試してみる。 4. 配偶者、教師や専門家等に相談する。 5. その他 |
回答の選択肢 | 1. 観察をやめさせる。 2. 好きなようにやらせる。 3. 一緒に観察する。 4. 配偶者、教師や専門家等に相談する。 5. インターネットなどで確認する。 6. その他 |
回答の選択肢 | 1. 断る。 2. 子どもの言うとおりにカビの生えたパンを捨てずに取っておく。 3. 子どもの帰宅後一緒にカビの観察をする。 4. 配偶者、教師や専門家等に相談する。 5. その他 |
以上の4つの場面に対する保護者の回答と、子どもの「理科好き」との関係をまとめたのが図3-20である(「その他」はそれぞれ回答がわずかであったため、図からは省略した)。なお、回答の選択肢は、それぞれの場面を踏まえて次のような意図で設けた(アルファベットは筆者による分類。図3-20も同様)。
A:子どもの理科的な興味・関心に基づく行動をやめさせる
B:子どもが飽きるまで好きなようにやらせるが、保護者は直接関与しない(9)
C:保護者も一緒に子どもの理科的な興味・関心に付き合う
D:自分では判断がつきかねるので、他人(配偶者、教師や専門家)に相談する
E:自分で情報を得て確認する(【ふたご座流星群の観察】のみ)
図3-20によると、設定した4つのすべての場面において、Cの「保護者も一緒に子どもの理科的な興味・関心に付き合う」という回答をした家庭の子どもが、最も「理科が好き」(「とても好き」+「まあ好き」の合計)である割合が高いことが見て取れる。子どもが理科や科学に興味・関心を抱いたような行動を見せたときに、保護者がそれに付き合って一緒に観察したり試したりする行動をとるような家庭において、子どもの「理科好き」がより育まれているようである。
ここで興味深い結果がある。Aの「子どもの理科的な興味・関心に基づく行動をやめさせる」場合と、Bの「子どもが飽きるまで好きなようにやらせるが、直接関与しない」場合とでは、子どもの「理科好き」の傾向にさほど大きな違いが見られないことである。Aの「行動をやめさせる」ことは、子どもの意欲を減退させ、理科的な興味や関心を失わせることにつながるであろうと想像がつく。しかし、Bの「飽きるまで好きなようにやらせる」のは、子どもの意欲を阻害しているわけではなく、むしろ子どもの自主性や好奇心を尊重しているようにも見える。それなのに、子どもの「理科好き」の割合はAとほぼ同じであるのはなぜだろうか。
この理由を、DとEの回答から探ってみよう(ただし、D・Eと回答した保護者の数が少ないため、解釈は参考程度にとどめたい)。Dの「自分では判断がつきかねるので、他人(配偶者、教師や専門家)に相談する」を選んだ保護者について見ると、子どもの「理科好き」の割合は、A・Bの割合と同じくらいか、それらを下回っている。一方、Eの「自分で情報を得て確認する」では、保護者単独の行動で子どもを伴わないのにもかかわらず、Cの「保護者も一緒に子どもの理科的な興味・関心に付き合う」に次いで子どもの「理科好き」の割合が多い。Eは【ふたご座流星群の観察】のみに設けた選択肢であるため、あくまでも推測の域を出ないが、CとEには保護者自身が理科的な興味・関心を持ち、行動を起こす、という共通点があるように思われる。それに対し、A・BやDは、C・Eに比べて保護者の理科的な興味・関心が薄く、子どもや他人に任せていると言えなくもない。これらのことから、子どもの「理科好き」は、保護者自身も理科や科学への関心を持ち、子どもと一緒に行動したり、自身で情報を得て子どもの興味・関心をサポートしたりすることによって、育まれるのではないかと考えられる。
図3-20 子どもの理科的な興味・関心に対する、保護者の行動の仕方(場面別)