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遠藤宏美(宮崎大学特任助教)
ところで、私たちがぼんやりと「あの人は理系っぽい」、「きっと理科が得意なのだろう」と推測するときに、その根拠としているものは何なのだろうか。言い換えると、理科好きには「資質」のようなものがあるのではないだろうか。そこで、「理科好き」が多い性格・行動特性の構造を知るために、先の性格・行動特性に関する質問への回答に対して因子分析を施した(4)。その結果が表3-2である。
因子分析の結果、2つの因子が抽出できた。まず、「じっくり考える」、「目標に向かって計画的に取り組む」、「筋道立てて話したり書いたりするのが得意」、「ものを分類したり、整理したりするのが好き」、「やり始めたら集中して取り組む」の因子負荷量が高い第1因子は、筋道立てた思考をし、計画を立ててじっくりとものごとに取り組むといった行動から、「論理的・計画的」因子と命名した。そして、「好奇心旺盛」、「思いついたら、自分で試してみる」、「大人のやることを真似したがる」、「ものごとの仕組みを知りたがる」の因子負荷量が高い第2因子は、興味・関心を持ちやすく、実際に真似したり試してみたりするといった行動から、「好奇心旺盛・行動的」因子と命名した。すなわち「理科好き」な性格・行動特性には、①論理的・計画的に考えたり行動したりする傾向と、②好奇心が旺盛で、ものごとに対して行動的に取り組む傾向との、大きく2つの資質が影響を与えているようであることがわかる。なお、表3-2に示したように、これら2つの因子の間の相関は0.619とやや高い正の相関があり、論理的・計画的に考えたり行動したりする資質を持つ子は、好奇心旺盛で行動力があるという資質の両方を持ち合わせる傾向があるようである。
表3-2 性格・行動特性の因子分析結果
(主因子法/プロマックス回転後の因子パターン)
次に、「論理的・計画的」因子を構成する5項目について、それぞれの回答を「よくあてはまる=4点」、「まああてはまる=3点」、「あまりあてはまらない=2点」、「まったくあてはまらない=1点」として合計した「論理的・計画的」得点を個人ごとに算出した。そして、できるだけ均等になるように3群に分割し、合計得点の低い方から「低群」、「中間群」、「高群」とした(表3-3)。「好奇心旺盛・行動的」因子を構成する4項目についても、同様に算出した(表3-4)。
表3-3 「論理的・計画的」得点群
表3-4 「好奇心旺盛・行動的」得点群
さて、これら2つの傾向に性差は見られるのであろうか。男女別に「論理的・計画的」得点群の割合を示したものが図3-3、「好奇心旺盛・行動的」得点群の割合を示したものが図3-4である。これによると、「論理的・計画的」な資質は男子に低い子が多く(低群:41.6%)、女子は高い子が多い(高群:42.1%)ようであり、若干女子のほうが「論理的・計画的」な資質を高く持っているようである。「好奇心旺盛・行動的」な資質を見ると男子は3群ともほぼ均等であるが、女子はやや低群が多い(低群:39.0%)ようである。
図3-3 男女別に見た「論理的・計画的」得点群の割合
図3-4 男女別に見た「好奇心旺盛・行動的」得点群の割合
これら2つの資質と「理科好き」との関連を見てみよう(図3-5)。どちらの資質を見ても、得点が高い群ほど「理科が好き」である割合が高い。さらに、それぞれの資質について、得点の低群と高群とを比較すると、「論理的・計画的」得点群ではその差が22.8ポイント(高群:85.8%-低群:63.0%)であるのに対し、「好奇心旺盛・行動的」得点群のそれは28.5ポイント(高群:88.9%-低群:60.4%)にも及ぶ。すなわち、どちらの資質とも、子どもがその資質を有することで「理科好き」につながりやすいが、好奇心や行動力を高く持つほうが、子どもをより「理科好き」にさせていると考えられる。なお、それぞれの資質の得点と「理科好き」の程度との相関係数を求めたところ、「論理的・計画的」な資質とは0.225の相関があったのに対し、「好奇心旺盛・行動的」な資質との相関係数は0.299と若干高かった(どちらも1%水準で有意)。このことからも、「理科好き」には好奇心や行動力の高さがより重要であることが推察される。
図3-5 「論理的・計画的」得点群・「好奇心旺盛・行動的」得点群別に見た、「理科好き」(「とても好き」+「まあ好き」)の割合
数値は、子どもにその性格・行動特性が「あてはまる」(「よくあてはまる」と「まああてはまる」の合計)と回答した割合を示す。