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渡辺恵(明治学院大学非常勤講師)
以上のように、子どもの学習に対する保護者の直接的な働きかけの様子を見てきた。では、どのような特性をもつ家庭が、子どもの学習により積極的に関与しているのだろうか。この点を、母親の就業形態や教育経験に加え、「文化的資源」(3)との関わりの中で、検討していくことにする。保護者が蓄積している「文化的資源」は、子どもの学習支援に活用できる知識や情報、所有物の質的・量的な違いにつながる。そして、保護者がそうした資源を子どもの学習支援のために活用しているかどうかにも関わろう。
母親の就業形態、最終学歴及び「文化的資源」別に、子どもの学習に対する保護者の関与傾向を見たものが、表2-2である。
表2-2.母親の就業形態別・最終学歴別、「文化的資源」別にみた子どもの学習に対する関与傾向
(表をクリックすると別ウィンドウで大きいサイズのものが表示されます。)
*「宿題などの勉強を見てあげるようにしている」の項目では、「とてもあてはまる」または「まああてはまる」に回答があった割合を、「子どもの疑問や質問について」の2つの項目では、「よくする」または「ときどきする」に回答があった割合を表示している。
**「学習関与度」は、「宿題などの勉強を見てあげるようにしている」に「とてもあてはまる」と回答した場合は3点、「まああてはまる」は2点、「あまりあてはまらない」は1点、「まったくあてはまらない」は0点とし、後者2つの項目では、「よくする」と回答した場合は3点、「ときどきする」は2点、「あまりしない」は1点、「まったくしない」は0点とし、各家庭における3つの項目の合計得点を算出したものである。「学習関与度」の平均値は、各カテゴリーの平均得点である。
その結果を見ると、子どもの学習に積極的に関与している家庭は、次の通りである。まず、母親の就業形態別に着目すると、母親が「正規雇用」である家庭では、「勉強を見てあげるようにしている」や「子どもの疑問や質問について、子どもと一緒に調べること」のいずれの項目でも、他の家庭に比べ、高い割合を示している。特に、「勉強を見てあげるようにしている」ことに関しては、次に割合が高い母親が「無職」、つまり専業主婦の家庭に比べても、約8ポイントも高くなっている。母親が「正規雇用」の場合、ほとんどのケースが共働き家庭であり、保護者が子どもと過ごす時間は、他の家庭に比べ少ないと思われる。そうしたなかで、保護者自らが子どもの学習に関わろうとする傾向が強いのは、子どもの将来における社会的地位の獲得に向けて、勉強習慣をきちんと身につけさせることに熱心になっているためではないだろうか。
母親の教育経験からみた場合、子どもの学習への関与は異なってくるのだろうか。母親の最終学歴別の結果を参照すると、母親が四年制大学以上の教育経験がある家庭では、学習に対する関与が強まる傾向が見受けられる。なかでも、「図鑑や事典、辞書を使って」、子どもの学習を支援する傾向は、「中学・高校」や「専門学校や各種学校」までの教育経験を持っている母親の家庭に比べ、だいたい10~12ポイントほど高くなっている。それに対して、母親の最終学歴が「専門学校や各種学校」である家庭では、保護者は、学校の勉強をみることも、疑問や質問を子どもと一緒に調べることも、他の家庭に比べ、子どもへの関わりが消極的な傾向が窺える。先のしつけの方針における知見を踏まえれば、母親が「専門学校や各種学校」卒の家庭では、子どもの教育達成よりも、子どもが将来自活していくことができることに、より、高い関心が向けられているのではないかと推察される。
「文化的資源」に着目すると、多群の家庭において、学習関与度の平均値が6.20と、他に比べて高い値になっている。3項目の中でもっとも差が大きいのは、やはり「図鑑や事典、辞書を使って子どもと一緒に調べること」である。この項目では、多群が少群に比べ21.3ポイントも高くなっている。子どもの疑問や質問について、調べものをする際に、図鑑や事典、辞書を活用するのは、それらを家庭で所有している、あるいは図書館に行く習慣があることが前提となる。その上で、それらを使いこなせる知識を有していることが求められる。つまるところ、それは「文化的資源」の活用に他ならないだろう。したがって、「文化的資源」が豊富な家庭は、それを活用して、子どもの学習に積極的に関与していると言えよう。