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小学生白書Web版 2010年9月調査 調査結果

第1章 学校での学びに対する意識 ~全体・性別・学年別にみる特徴~

渡辺恵(明治学院大学非常勤講師)

2.学びに対する意識
(3)体験的な授業が好まれる

 新しい学習指導要領では、教育方針のひとつに、基礎的・基本的な知識・技能の習得が掲げられている。特に、小学校低・中学年では体験的な理解に加え、繰り返しの学習を重視するようになる。また、そうした学習活動の上に、基礎的・基本的な知識・技能を活用して課題を解決できる思考力や表現力等を育む教育活動が重視されるようになる。言い換えれば、体験的な授業や反復学習の授業、児童自らが表現していく授業や自らが考え判断していく授業が行われるようになると思われる。

では、小学生は、そうした授業をどのように受けとめるのだろうか。そこで、今回のアンケートでは、以下のそれぞれについて、AとB、どちらの授業タイプが好きかを尋ねた。

  • 体験中心の授業(「見学に行ったり観察したりする授業」)
  • 知識伝達中心の授業(「教科書にそって進める授業」)
  • 講義中心の授業(「先生の話を聞くことが中心の授業」)
  • グループ学習の授業(「みんなで話しあったり、教え合ったりする授業」)
  • 反復~定着させる授業(「くり返しやることで、大事なことがしっかりと覚えられる授業」)
  • 興味・関心を広げる授業(「大事なことだけではなくいろいろな話で、興味や関心が広げられる授業」)
  • 指示型の授業(「ひとつひとつ細かくていねいに指示してくれる授業」)
  • 自主的判断型の授業(「どうしたらよいのかを自分で考えさせてくれる授業」)
  • 長所伸長の授業(「自分の良いところをさらに伸ばしてくれる授業」)
  • 苦手克服の授業(「自分の苦手なところを克服させてくれる授業」)

表1-1.好きな授業(全体)

  Aが好き どちらかと
いえば
Aが好き
どちらかと
いえば
Bが好き
Bが好き  
A.見学に行ったり観察したりする授業 65.0% 29.0% 4.5% 1.5% B.教科書にそって進める授業
A.先生の話を聞くことが中心の授業 5.7% 23.6% 47.9% 22.8% B.みんなで話しあったり教えあったりする授業
A.くり返してやることで,大事なことがしっかりと覚えられる授業 4.0% 20.1% 49.8% 26.2% B.大事なことだけではなくいろいろな話で、興味や関心が広げられる授業
A.ひとつひとつ細かくていねいに指示をしてくれる授業 15.4% 51.0% 24.8% 8.8% B.どうしたら良いのかを自分で考えさせてくれる授業
A.自分の良いところをさらに伸ばしてくれる授業 22.3% 48.0% 21.3% 8.3% B.自分の苦手なところを克服させてくれる授業

 その結果、「見学に行ったり観察したりする授業」を好きと回答する児童は9割(「Aが好き」と「どちらかといえばAが好き」の合計)を超え、「教科書にそって進める授業」を圧倒している。
 また、講義形式かグループ学習形式かでは、「みんなで話し合ったり教え合ったりする授業」が約7割(「Bが好き」と「どちらかといえばBが好き」の合計)と、グループ学習形式の授業が好まれる傾向が見て取れる。
 反復~定着させる学習か興味・関心を広げる授業かでは、「大事なことだけではなくいろいろな話で、興味や関心を広げられる授業」が好きと回答する児童が76%(「Bが好き」と「どちらかといえばBが好き」の合計)と、興味・関心を広げる授業に軍配があがっている。

 さらに、指示型か自主的判断型かでは、「ひとつひとつ細かくていねいに指示をしてくれる授業」を好む児童が3分の2程度(「Aが好き」と「どちらかといえばAが好き」の合計)であり、自らが考える授業よりも細かく指示される授業が望まれる傾向にあるようである。
  長所伸長か苦手克服かでは、「自分の良いところをさらに伸ばしてくれる」、長所伸長型の授業が好きな児童が約7割(「Aが好き」と「どちらかといえばAが好き」の合計)であった。

 まとめると、小学生は、細かな指示を受けながら、体験的な学習やグループ学習を取り入れた形式で、知識の定着よりも興味関心を広げ、個々の児童の長所(個性)を伸ばす授業を好んでいることがわかる。
 総合的な学習の時間の学習のねらいにあるように、体験的な学習やグループ学習を好ましく感じるのであれば、本人の問題関心を発展させ、自らが考えながら学んでいくような授業を好むと思われる。しかしながら、アンケートの結果によると、小学生は教師からの細かな指示を受けながら学ぶことを望んでいることがわかった。
 とするならば、体験的な学習やグループ学習が好きな理由は、自主的な学びを尊重してほしいからではなく、友だちと賑やかに学べるからであると考えられる。小学生にとっては、この友だちと関わり合いながら学べることが授業の楽しさやおもしろさにつながっているのではないだろうか。そして、楽しいと感じることが何よりも大事なのではないだろうか。

 この点は、反復しながら知識を定着させたり、苦手を克服したりする授業が不評な理由にも関わるであろう。つまり、小学生は授業に対して、自らの成長や将来につながることを求めるよりも、楽しさやおもしろさなど即時的な(その場その場の)欲求を満たすことにつながることをより強く求めていると考えられる。だからこそ、友だちや先生と関わることの楽しさを感じられる授業の形態の方が好まれる結果になったと思われる。

 ところで、児童が好む授業は、現行の学習指導要領で推奨されていたものと合致すると思われる。しかし、新しい学習指導要領の下で重視されるであろう、知識の定着を目指す反復型の授業や思考力や判断力を育む授業は、今回の結果では児童に好まれていなかった。この点で、新しい学習指導要領の下で重視される授業は、児童にとって受け入れ難い授業になるのではないかと推察される。

 なお、男女差に大きな違いは見られない。学年別では、小学1年生において他の学年に比べ、知識を定着させるための反復型の授業や講義中心の授業を多少好む傾向がうかがえる程度であった。

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