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角替弘規(桐蔭横浜大学教授)
以下、本節では回答者の世帯収入を独立変数として子どもの理科に対する選好傾向を分析するが、分析の便宜上世帯年収に応じてその構成比がほぼ等しくなるよう4つのグループに分割した。各グループごとの構成比を表1‐6に示す。
表1-6 世帯年収の四分位と構成比
文部科学白書によれば、子どもが大学を卒業するまでに家庭が負担する教育費は、約1000万~2300万円と、国立私立による幅はあるものの、家計にとっては相当の負担となっていることが示されている(2)。また、年収に占める子どもの在学費用(小学校以上に在学中の全ての子どもにかかる費用)の割合がおよそ40%に達し、年収の低い世帯においてはかなりの負担となっていることを示す調査結果もある(3)。このように、子どもの教育費が家計において大きな割合を占めその負担が増している中にあって、子どもの教育達成が家庭の経済状況から何らかの影響を受けていると見ることは、決して不自然なことではない。教育社会学においては、家庭の経済力が子どもの教育達成に影響を与えていることがかねてより指摘されている(4)。そして、単に経済力のみが影響を与えるというのではなく、職業などに代表される保護者の社会的地位といった社会階層が子どもの教育達成に影響していることが指摘されているところである。すなわち、子どもはどのような家庭に生まれ落ちるのかによって、教育機会の選択や職業選択といった社会移動の機会が大きく左右されかねないという状況にあるということを、今後のこの国の教育の在り方を検討していくうえでの前提とする必要があるだろう。
こうした指摘を裏付ける結果が今回の調査においても示されている。例えば、自分の子どもを塾に通わせていたり、習い事をさせたりしているかについて、回答を求めた結果を、世帯年収別にまとめたものを表1‐7に示す。
表1-7 塾・習い事をしている子どもの割合(世帯年収別)
*それぞれの塾・習い事について「している」と回答した者の割合(複数回答)
世帯年収が400万円未満の家庭では塾に通っている子どもの割合はおよそ4分の1であるが、400万円以上600万円未満の家庭では約3割、600万円以上800万円未満の家庭では約4割、800万円以上の家庭では約5割と、世帯年収が高くなるにつれて塾に通う子どもの割合が高くなっていることが分かる。
家庭教師については「している」と回答した者の実数がかなり少ないので単純に比較はできないが、やはり年収の高い家庭において「している」と回答する者の割合が多くなっている。
通信教育については「している」者の割合が600万円以上800万円未満の家庭において最も高くなっているものの、やはり比較的年収が高い家庭の方がその割合が高い傾向が見受けられる。
スポーツや楽器あるいは珠算・習字といった習い事については、全般的に5〜6割の家庭の子どもが「している」ということになっているが、これについても年収の高い家庭の方が「している」割合が若干ながら高い傾向である。
また「何もしてない」について見れば、これまでとは逆に世帯年収の低い方がその割合を高めている。例えば400万円未満においては4分の1以上の者が「何もしていない」のに対して、800万円以上の家庭では1割に満たない。
以上の結果は経済的な収入が多い家庭の方が教育熱心であるということを単純に意味するわけではない。むしろ、経済的収入の高い家庭の方が、学校以外の有償の教育サービスを享受しやすいということを示しているに過ぎない。ただ、こうした教育機会を平等に享受できないことの積み重ねが、本来公平に開かれて然るべき学校教育の達成度に大きな影響を及ぼす可能性があるならば、経済的収入の少ない家庭の子どもに対する教育機会をいかに保障していくか、ということが今後の教育の在り方を検討するうえでの大きな論点となるだろう。