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角替弘規(桐蔭横浜大学教授)
ところで、前節においては父親の職業によって子どもの理科の選好傾向に何らかの違いがあるかどうかについて検討した。その結果、父親が「専門技術系職員」である場合に、子どもが「理科好き」であり、また理科的な活動に積極的に取り組む傾向が見受けられた。それでは、家庭の経済力の違いに着目した場合、子どもの理科の選好傾向にはどのような違いが見受けられるのだろうか、検討してみよう。
表1‐8は子どもが学校生活を楽しそうに送っているかどうかについて尋ねたものを世帯収入別に比較したものである。
表1-8 学校生活を楽しそうに送っている子どもの割合(世帯年収別)
これによれば、「とても楽しそう」と「まあ楽しそう」を合算して、学校生活を肯定的にとらえていると見なせば、いずれの収入区分においても9割以上が学校生活を楽しそうに送っていると回答していることが分かる。また、若干ではあるが、世帯年収の多い方が肯定的な回答を示している割合が多くなっている傾向が見られる。さらに、「とても楽しそう」だけに限定してみれば、800万円以上の家庭においては4割以上の者が「とても楽しそう」と回答しており、他の区分よりも高い割合を示している。
では、理科について見ればどうであろうか。表1‐9は「あなたのお子さんは理科が好きですか」との問いに「とても好き」あるいは「まあ好き」と答えたものの割合を世帯年収別にまとめたものである。
表1-9 あなたのお子さんは理科が好きですか(世帯年収別)
子どもが「理科が好き」かどうかについては、いずれの収入区分にあっても7割以上の保護者が「好き」であると回答している。したがって、家庭の経済的状況によって子どもの理科に対する好き嫌いが大きく左右されるということはないようである。ただし、「とても好き」という回答だけに着目するならば、400万円未満のグループと800万円以上のグループにおいて2割を超えていた。特に最も高いのは世帯収入が800万円以上のグループであった。
では理科の成績についてはどうだろうか。やはり世帯年収ごとに子どもの成績を尋ねた結果を表1-10としてまとめた。
表1-10 あなたのお子さんの理科の成績は、学校のテストの点数や
通知表から見てどれくらいですか(世帯年収別)
先述のとおり、理科の成績についての判断は、保護者の主観によるものであるため、幾分正確さを欠くものではあることに留意する必要はあるが、これまでの分析と同様に、いずれの収入区分においても、理科の成績が「とても良い」あるいは「まあ良い」と回答している保護者はほぼ8~9割に達している。ただし、「とても良い」という回答に限定してみた場合、年収400万円未満の家庭の場合はその割合が2割に達していない一方で、年収800万円以上の家庭の場合では3割を超えていた。「理科好き」についてはこれほど大きな差は見られなかった一方で、保護者の主観ではありながら、理科の成績すなわち教育達成に対する評価が大きく異なる点には注目したい。
以上のことから、子どもの学校生活や教科としての理科に対する「好き」、「嫌い」については家庭の経済的状況と大きな差は見受けられない。しかしながら理科の成績の良し悪しについては、世帯年収の高い家庭の子どもの方が良い成績を取っている傾向が見いだされた。理科に対する興味や関心は一様にあるとして、それを成績という教育達成の結果としてとらえようとしたときに、家庭の経済的な状況が何らかの影響を与えていると考えられるということである。こうした成績の違いはいかにして生じるのであろうか。そこで、子どもが日常的に理科的な活動にどの程度取り組んでいるのかということについて、世帯年収別に比較した。その結果を表1-11に示す。
表1-11 世帯年収別にみた子どもの理科活動得点の比較
ここから明らかとなるのは、子どもの理科活動が活発なのは、世帯年収が800万円以上の家庭と、世帯年収が400万円未満の家庭の両極に分かれていることである。とは言え、年収800万円以上の家庭の子どもの方が理科活動得点が高い傾向にある。しかしこれを持って家庭の経済状況が子どもの理科活動に影響を与えているとは断定できない。なぜならば、世帯年収が600万円以上800万円未満の家庭では、むしろ理科活動得点が低い子どもの割合が多くなっているからである。では、子どもに対する保護者の働きかけについてみるとどのような違いがみられるだろうか。